まずは直接圧迫法を用いる
出血を伴う外傷が発生した際、まずプレーを中断させます。
出血が少ない場合は、水道の流水で傷口をしっかり洗浄します。感染予防のために、手当てを行う人は使い捨て手袋を着用するか、ビニール袋を手にはめて、必要に応じて止血をしてから患部を覆います。手順は後ほど説明します。
出血がひどい場合は、「直接圧迫法」を用いましょう。滅菌ガーゼまたは清潔なタオルなどを出血部位に直接あてて、しっかりと強めに圧迫する方法です。患部を心臓よりも高い位置に挙げるとより効果的なので、腕であれば押さえたまま上に挙げます。脚であれば、寝かせた状態で脚を挙げます。
直接圧迫法では出血が収まらない四肢のケガによる出血の場合には、心臓に近い止血点(脚であれば脚の付け根の動脈)を押さえる関節圧迫法を併用してください。
直接圧迫法を使用するような止血をした場合や、出血が止まらない場合は医療機関を受診してください。また、本人が動けないような状態のときは救急車を呼びましょう。
傷の治りに必要なのは湿度管理と感染対策
ヒトの身体はどこかが傷つくと、即座にその部位を修復しようとする力が発揮されます。擦過傷も例外ではありません。傷が大きいと出血するだけでなく、滲出液(しんしゅつえき)という透明な液体が出てきたりしますが、この液体には傷口を修復するのに必要なタンパク質などの栄養が多く含まれています。
新しい細胞は清潔かつ湿った状態で再生が早く進むため、傷口を洗浄した後はできるだけ細菌が入らないよう完全に密閉することがポイントです。傷口が大きめでも、感染しないよう密閉できれば、傷跡を残さず綺麗に治すことも可能です。
かさぶたが早くできるよう傷口を乾かす考え方が一般的な時代もありましたが、現在はかさぶたができると治りが阻害されることが分かってきました。かさぶたができるのを待って傷口を放置しておくと、感染のリスクも出てきます。傷口はとにかく密閉し、新しい細胞が早く積み上がって新たな皮膚に生まれ変わるのを手助けしましょう。密閉、覆う方法については次の章で紹介します。
一方、傷口から膿みのようなものが出てきたり、化膿して赤く腫れ上がったりする場合やリンパ節が痛むような場合には感染している可能性があるため、医療機関を受診しましょう。
早くキレイに治すには「洗う」→「覆う」
傷口への対応の手順は次の通りです。
1. 傷口は水道の流水で洗う
2. 必要に応じて止血
3. 傷口が乾かないよう軟膏または創傷用の被覆剤で全体を覆う
詳しく解説していきます。
傷口は、水道水で洗って異物などを取り除き、前述のように必要に応じて止血を行います。次に、細胞の生まれ変わりが進む環境が清潔に保てるよう、傷口を密閉します。
密閉する方法として、綿棒などを使用して軟膏を薄く塗り広げ、その上から傷口より少し大きめに切った食品用ラップを密着させて周囲をテーピングテープやサージカルテープ(包帯を止めるもの)などで固定させます。
傷口を覆うより簡単な方法は、ハイドロコロイドという種類の絆創膏・パッドを使用することです。ハイドロコロイド製品は皮膚に密着しながら、傷口を完全にカバーする便利なものです。やや高価ですが、傷口に密着してずれにくいため便利です。
また、昔は傷ができた直後や絆創膏を取り替えるたびに消毒液を使って消毒することが一般的でしたが、消毒を行うと細菌だけでなく、滲出液に含まれる有効成分や傷口が治る過程で必要な新しい細胞も破壊してしまうため、今は使用は避けたほうが良いとされています。
救急箱に揃えておきたいもの
自宅の救急箱やスポーツチームで使う救急バッグには、傷口の手当のためにどんなものを用意すれば良いでしょう。
まずは感染予防のための使い捨て手袋です。清潔な状態で保管できるよう密閉式のビニール袋などに入れ、すぐに取り出せるところに準備しましょう。
絆創膏はほとんどの場合常備されていると思います。大きさや用途などによっていろいろ種類がありますが、スポーツで使用するなら、汗や摩擦ですぐに剥がれたりしない、防水性や粘着性の高いものを選ぶことをお勧めします。
さらに追加するなら、洗浄した後の傷口を密閉できるような軟膏と食品用ラップ、前述のハイドロコロイド製品と呼ばれる被覆材です。軟膏を清潔に塗れるような綿棒もあると便利です。
傷口を覆ったものがずれないよう、さらに上から貼ったり巻いたりする伸縮テーピング、伸縮包帯などもあると良いでしょう。
最後に、相手を傷つけないよう練習や試合の前に指の爪を短くしておくこと、普段使用するスポーツ施設や防具・装具でぶつかって危ない箇所がないか定期的に点検・整備することも、大きなケガを予防し、スポーツを楽しむための大切なポイントです。