記事提供:スポーツ安全協会

スポーツ現場の救急箱に必要なものリスト

「スポーツ現場に救急箱が必要なのは分かるけど、具体的にどんなものを用意しておけばいいのか分からない…」。こんな悩みを持ったコーチや保護者の方は実は多くいらっしゃいます。今回はスポーツ中に起こる怪我の応急手当に必要な救急箱の中身について、擦り傷や鼻血、捻挫や骨折などの怪我、熱中症など体調を崩してしまったときなどを想定して最低限押さえておきたいポイントと、具体的なリスト(記事末尾に記載)をご紹介します。

筆者

筆者
陣内 峻
NPO法人スポーツセーフティージャパン ディレクター

ネバダ州立大学ラスベガス校キネシオロジー学部卒 米国BOC公認アスレティックトレーナー(ATC) 総合学園ヒューマンアカデミー、学校法人三幸学園東京リゾート&スポーツ専門学校、日本健康医療専門学校非常勤講師 都立武蔵中学校・高等学校サッカー部トレーナー 米国スポーツ医学アカデミー公認フィットネスエデュケーター

「何を用意するか」ではなく「どんな応急手当をするか」を考える

スポーツ現場でチームとして用意する物品は、競技の種類や選手の人数、アスレティックトレーナーなどの専門家の帯同の有無などによって変わってきます。チームとして何を用意するかではなく、チームとしてスポーツ現場でどんな応急手当をする必要があるかを考えることによって、具体的に必要なものが明らかになります。

これまでどのような怪我が起こり、どんな応急手当をしたのか、応急手当で何が困ったかを振り返ってみてください。

また、「何を用意するか」で救急箱の中身を揃えると、具体的な使い方が分からないどころか、いざというときに使えず、必要なものを取り出すときに邪魔になってしまうことさえあります。今回は、専門家の帯同がない地域のクラブチームを想定して進めていきましょう。

まず想定しておきたい「緊急事態」のときのこと

まず想定しておかなければならないのが、緊急事態が起こってしまったときの対処です。緊急事態が起こったときのために、迅速に医療機関へ搬送するために必要な情報をまとめているのがエマージェンシーアクションプラン(EAP:緊急時対応計画)です。

エマージェンシーアクションプラン(sample)
野球場で活動する場合のEAP(緊急時対応計画)の例

最寄りのAED(自動体外式除細動器)はどこか、病院はどこか、救急車・救急隊員の経路、といったことをまとめて記載しておくものです。緊急事態が起こってからこれらの情報を集め始めるのでは、医療機関への搬送が遅れてしまいます。

プロスポーツなどのトップレベルの試合会場や大きな大会であれば、EAPは試合会場にそれぞれ掲示されますが、少年団や部活動など、子どもたちが普段練習しているグラウンドなどでは掲示できる場所がないかもしれません。

子どもの練習を見に来たお父さん、お母さんでも緊急時に救急車を呼べるように、119番通報をしたときに必要な情報などが記載されているEAPをいつでも取り出せるようにしておくとよいでしょう。

また、緊急時の対応をする際には時間などを記録する必要があるので、メモ帳筆記用具も用意しておきます。

擦り傷や鼻血などの応急手当に必要なもの

スポーツ現場で多い応急手当が、出血の対応です。出血の対応の基本は、止血ですが、忘れがちなのが自分自身を守ること。出血の対応をするときには必ず、使い捨て手袋を着用するようにしてください。傷口の止血や清浄するためのガーゼティッシュ綿棒を用意します。さまざまな大きさの絆創膏も必要になります。

絆創膏ではなく、治癒を早くするため傷口を乾かさない湿潤療法に防水フィルムを使用することも効果的です。絆創膏や防水フィルムが剥がれないように、応急手当が終わってからプレーに戻る前に伸縮性のテーピングを上から巻きます。

使い捨て手袋などを装着したうえ、ガーゼなどを使用して傷口を直接圧迫
使い捨て手袋などを装着したうえ、ガーゼなどを使用して傷口を直接圧迫

捻挫や打撲などの応急手当に必要なもの

足首を捻ったり、太ももに膝が入ってしまったりすることもスポーツ中にはよく起こります。このような捻挫や打撲をしたときには、アイシングの手当てを行いましょう。アイシングにはと氷を入れるビニール袋もしくは氷嚢(アイスバッグ)が必要です。

捻挫や打撲の応急手当で重要になるのが圧迫です。圧迫することでさらに腫れるのを抑えます。しっかりと圧迫できるように氷の入ったアイスバッグを弾性包帯で覆うようにして怪我をした部位に巻きましょう。包帯を適切な長さにカットするためにはハサミが必要です。ハサミは他の応急処置にも使用しますので必需品です。

打撲や捻挫などの応急手当て
怪我をした部位を休め、氷嚢(アイスバッグ)を当て、弾性のバンテージで圧迫しながら固定。怪我をした部位を心臓より高く挙げる

 

脱臼や骨折を疑うような大きな変形がある場合の応急手当

スポーツ中に怪我をして、大きな変形や腫れがある場合には脱臼や骨折を疑います。脱臼や骨折を疑う場合には、「怪我をした部位を動かさない」が原則です。

太ももの大きな骨の骨折や股関節の脱臼の疑いがある場合、頭や首、背骨の怪我の場合は、緊急事態ですので迷わずに救急車を呼んでください。

怪我をした部位を動かさずに病院へ連れて行くには、固定をする必要があります。固定をするためには、専用の固定具(シーネや副子など)があるとベストですが、段ボールや雑誌でも簡易的に代用できます。

三角巾非伸縮性・伸縮性のテーピングなどを使って固定してください。

脱臼や骨折が疑われる場合の応急手当て
肩や腕に怪我をした場合には三角巾で固定。手足の場合には、固定具を使用

歯が折れた・抜けたときの応急手当

スポーツ中に肘などが顔に当たり、歯が折れる・抜ける場合もあります。折れた・抜けた歯を歯医者に持って行くためのティースキーパーも救急箱にあると便利です。

スポーツ中に歯が折れたり抜けたりすることがほとんどないようなスポーツもありますが、バスケットボールのように歯が折れたり抜けたりするようなアクシデントが起こるスポーツもあるので、救急箱の中身は競技特性に合わせて考えることが大切です。

体調を崩したときの応急手当

スポーツ中に起こるのは怪我だけではありません。

熱中症の疑いがあるときには、水分補給として経口補水液を使用します。熱中症対策として塩分タブレットを準備しているチームもあります。体調を悪くしたときには、体温を測るための体温計保温シートを使います。

また、合宿などの遠征の移動で乗り物に酔ってしまう場合もあるので、吐瀉物処理セットなども救急箱に入れておくと便利です。

選手個々のニーズに合わせたもの

救急箱には応急手当以外にも選手個々のニーズに合わせたものを入れることがあります。

爪切りピンセットコンタクトレンズ手鏡使い捨て目薬日焼け止めなどです。

脳振盪の疑いがあるときのために

脳振盪疑い
脳振盪にはさまざまな症状があります。光や音に敏感になる場合など、いつもと違うところがないか、ツール(CRT)を使って確認

脳振盪の疑いがあるときには必ずプレーを中止し、医師や専門家に評価してもらう必要があります。

子どもから大人までの脳振盪を見逃さないために、医師や専門家ではなくその場にいるコーチや保護者の方が判断するための「脳振盪を疑ったときのツール(CRT)」の日本語版が日本脳神経外傷学会スポーツ脳神経外傷検討委員会により作成され、公開されています。ぜひ、プリントアウトして救急箱に入れておいてください。

CRT5
脳振盪を疑ったときのツール(CRT 5)(⽇本脳神経外傷学会より許可を得て掲載しています)

救急箱の中身に迷わないために

救急箱の中に用意していても、誰もその使い方を知らなければ意味がありませんので、下記のチェックリストを参考に揃えて、本記事も一緒に共有してみてください。

そして、EAPや脳振盪を疑ったときのツールであるCRTは、あまり聞き慣れない名前かもしれませんが、スポーツ現場にいるコーチや保護者の方には必ず救急箱に入れておいてほしいものです。

救急箱の中身チェックリスト

《用意すべきもの》

  • EAP(エマージェンシーアクションプラン)
  • CRT(脳振盪を疑ったときのツール)
  • メモ帳
  • 筆記用具

擦り傷や鼻血など

  • 使い捨て手袋
  • ガーゼ
  • ティッシュ
  • 綿棒
  • 絆創膏
  • 伸縮性のテーピング
  • 防水フィルム*

捻挫や打撲など

  • ビニール袋/氷嚢
  • 弾性包帯
  • ハサミ
  • 脱臼や骨折など
  • 固定具(段ボール/雑誌)
  • 三角巾
  • 非伸縮性のテーピング
  • 伸縮性のテーピング

歯が抜けたとき

  • ティースキーパー*

体調を崩したとき

  • 体温計
  • 保温シート
  • 経口補水液
  • 塩分タブレット
  • 吐瀉物処理セット

その他

  • 爪切り*
  • ピンセット*
  • 手鏡*
  • コンタクトレンズ*
  • 使い捨て目薬*
  • 日焼け止め*

*必須ではないが、救急箱にあると便利なもの

 

※当記事は(公財)スポーツ安全協会より記事提供を受けています。