本格的に暑くなる前に、暑さに慣らす「暑熱順化」を始めよう
熱中症は夏の最も暑い7月や8月だけでなく、急に暑くなる梅雨明けに起こりやすいことがデータで知られています*1。
春から夏にかけてまだ身体が暑さに順応できていない時期や試験期間などで運動を完全に休んでいた時期からの再開時も、暑いと感じて汗をかくなどの体温調節機能がうまく働かず、体温が上がりやすくなります。これを防ぐために行っておきたいのが、「暑熱順化」です。
アスリートを対象とした研究では、暑熱順化を始めて3日目で発汗率の上昇や心拍数の低下が始まり、完全な効果を得られるようになるには2週間程度かかるというデータがあり*2、人によって数日から2週間程度の時間を要します。
4月〜6月あたり(地域によって異なります。日本気象協会「暑熱順化前線」 なども参考に)の気温が高まることが予想される活動日の2週間前を目安に、水分補給をしっかり行いながら、時間を制限しながら気温の高い日のトレーニングを開始継続し汗をかくことで暑熱順化が成立します。
暑さ指数を確認して練習時間を調節
暑熱順化の期間に欠かせないのが熱中症の危険度を可視化できる暑さ指数(WBGT)の計測です。
環境省によると、暑さ指数(WBGT)の7割は湿度に影響され、気温の影響はたった1割に過ぎません*3。特に、季節外れで急に暑くなるようなケースでは、参加者が実際にどれくらい暑いと感じながら運動しているのかが分かりにくいため、積極的に計測を行いましょう。
実際の測定には、暑さ指数(WBGT)を計測できる計器を用います。
暑熱順化をさせたい期間は、気温が高い日に時間を制限しながらトレーニングをすることがポイントです。各競技団体などから示されているガイドライン(参考 公益財団法人日本スポーツ協会 熱中症予防のための運動指針)に沿って、練習内容の強度を下げるなどの調節、水分補給のタイミングを工夫しましょう。
水分補給のタイミングを増やす
暑熱順化期間はより多めの水分補給を心がけましょう。
温度が急に上がった日などは、水分補給をあまり行っていなかった涼しい時期の習慣から抜け出せず、声がけが十分でない可能性があります。また、練習中はできるだけ本人の好きなタイミングで水分補給ができるような環境や雰囲気づくりを心がけましょう。
暑熱順化が完了したあとは、体温調節が正常に機能するようになり、発汗量は増えます。継続的にこまめな水分摂取に努めましょう。
参加者の体調確認は欠かさずに
スポーツを始める前は、必ず参加者の体調やスポーツへの参加が久しぶりでないかを確認しましょう。一声かけて無理をさせないことで、熱中症だけでなく、さまざまなケガや体調の悪化を未然に防ぐ確率が上がります。
前日に発熱や下痢などの症状があった参加者は特に、身体が脱水状態である可能性があります。“病み上がり”の参加者は、熱中症リスクが上がるので、体調や水分補給の状況などをしっかりモニターしましょう。
暑熱順化は熱中症を予防するためにできることのひとつです。ご紹介した内容はどれも簡単に実施できるものばかりです。春先から初夏にかけて運動に参加する人は無理をしない、指導をする人は無理をさせない、を忘れずスポーツを楽しみましょう。
以下の記事も参考に、ご覧ください。
夏のスポーツ活動を安全に —熱中症予防—
スポーツ中の熱射病は救急対応の30分がカギ
参考文献
*1 総務省消防庁 令和6年熱中症による救急搬送状況(週別推移)
*2 Periard et al. Heat Acclimation: Thermophysiology of Health and Performance. Heat Stress in Sport and Exercise. January 2019.
*3 環境省「熱中症予防情報サイト」 暑さ指数(WBGT)について学ぼう