スポーツ事故の原因トップ3が「トリプルH」
スポーツ中の子どもの死亡事故や重度の後遺症が残るような怪我や病気の原因のトップ3は、突然心停止(Heart)、頭や首の怪我(Head & Neck)、熱中症(Heat)というデータがあります。英語の頭文字が全てHから始まるため、「トリプルH」として特に、すぐに対処ができるよう準備しておく必要があります。その準備が選手・子どもたちの命を守ることにつながります。
今回は、ますます暑くなるこの季節から始める熱中症(Heat)についての備えを紹介していきます。
熱中症は大きく分けて4種類
スポーツ活動中に発生する熱中症は、症状や重症度によって4種類に分かれています。それぞれ対応方法も異なりますので、大まかにどんな症状が現れるか・どう対処するか、をまとめておきました。ぜひチーム内で共有してください。
特に子どもは発達の個人差や汗のかき方などが違いますので、周りにいる大人は子どもたちの活動中の様子をよく観察してこまめな水分補給と日陰での休憩を定期的に入れるようにしましょう。もちろん子どものためについ頑張ってしまう大人の皆さんも同様に水分補給と休憩をとるようにしましょう。
また、実際にスポーツを行う場所での暑さ指数を測り、何度以上の場合は中止と定めるガイドライン(公益財団法人日本スポーツ協会 熱中症予防のための運動指針参照)に沿ってスポーツを行うかどうか判断しましょう。暑さ指数(WBGT)とは、湿度・輻射熱・気温などを考慮し、計測した場所で人がどれだけ暑いと感じるかを客観的に見れる数値です。
では次項から、4つの熱中症を詳しく解説していきます。
熱中症4種類の症状と対応
原則として、熱中症の症状が疑われたら運動を中止し、選手の様子を観察しそれぞれの熱中症の対処にすばやく移りましょう。
貧血の症状と似ている「熱失神」
開会式などで長時間足を動かせずに立ちっぱなしの時、または長距離を走ったゴール直後に立ち止まった時、立ちくらみのような症状や失神を経験したり見たりしたことがある人もいるでしょう。それが「熱失神」です。
熱中症のなかでも軽度といわれる「熱失神」は、一時的な血圧低下で起こります。たとえば暑いなかじっと立っていると血管が開き、重力で血液は足のほうへ溜まります。その結果、血圧が下がり立ちくらみや失神などが起こります。熱失神が起きたら、涼しい場所へ移動させ、足を高くして仰向けに寝かせます。足を高くすることで、血流が戻るのを促します。失神で倒れた場合は、頭や身体を打っていないかも確認しましょう。
足などがつる「熱けいれん」
試合中にやたらとふくらはぎをストレッチする選手・子どもを見かけたり、「つった!」と言ってひっくり返るシーンに遭遇したことはありませんか。
スポーツ中に筋肉がつる「熱けいれん」は、長時間の運動による疲労、そして発汗と共に、水分や塩分などの電解質が失われることで起きます。けいれんが起きやすいのは、ふくらはぎやももの裏側、ももの前側です。激しい運動中や試合中に筋けいれんがみられたら、筋肉のストレッチを行い、スポーツドリンクや経口補水液など電解質の入った飲み物を摂るようにしましょう。
見守る大人もかかりやすい「熱疲労」
長時間の運動で脱水が引き起こされ、気分が悪くなったり、頭痛や倦怠感、めまいなどの症状に陥った人も多いはず。これが「熱疲労」で、最も多く見られる熱中症です。
試験明けや怪我から復帰したばかりの生徒が部活動を再開する際など、しばらく運動をしていなかった人が急に運動を始めたり、身体が暑さに慣れていない時期のスポーツ活動に伴う体調などのコンディションの要因や、気温・湿度などの条件が重なれば、どの季節にも起こり得ます。
熱疲労が疑われたら、涼しい場所への移動と水分補給を行いましょう。冷たい水に浸したタオルや氷をビニール袋に入れたアイスバッグなどで身体を冷やすことも効果的です。
即座に冷却を開始。発症後30分が明暗を分ける「熱射病」
炎天下での運動、くもりでも暑さ指数の高いなか運動をする、前日まで体調が悪かったのに急に負荷の高い運動をする、長時間水分補給がない、などの条件が重なると「熱射病」のリスクは高くなります。
熱射病は体温調節機能が破綻し、身体の深部の体温が上がり続ける最も危険な状態です。言動がおかしくなったり、 意識が朦朧としたり、突然倒れたりするケースもあります。ヒトの身体は高温に弱いため、その状態が30分以上続くと、死に至ったり、後遺症が残ったりします。熱射病が疑われたら、まずは救急車と意識がなくなった場合に備えてAEDを要請し、容体を観察しながら全身を冷やして、体温を下げることを最優先させましょう。
最も効果的なのは、氷水に全身を浸けて冷やす方法です。全身冷却専用のビニールプール(アイスバス)も販売されています。常に準備するのが難しい場合は、ブルーシートで代用する方法や、氷水のバケツに浸した薄手のタオルを複数枚使用して身体全体を覆い、体温で温まったタオルをどんどん交換していく方法、水道の下に運んで流水を当て続ける方法もあります。
これら症状の判断が付かない場合には、熱中症が疑われる際の対処フローを参考にしてください。
最初にお伝えした「トリプルH」の中でも熱中症は予防が可能な症状です。本格的に暑くなる前に身体を暑さに慣れさせる「暑熱順化」することも予防につながりますし、何より脱水状態にならないことが熱中症のリスクを下げパフォーマンス向上において肝心です。こまめな水分補給に気をつけながら、安全に楽しく夏を乗り切りましょう。
※当記事は(公財)スポーツ安全協会より記事提供を受けています。