頭を打っていないから大丈夫……ではない!
脳振盪は頭を打って起こると思われがちですが、頭を打たなくても頭蓋骨の中にある脳が揺れることで起こります。肩からの転倒など身体への衝撃や振動が結果的に頭まで伝わり、脳が揺れたら脳振盪は起こりえます。
そのため頭や顔を打っていなかったとしても、大きな衝撃が加わっている場合は注意深く症状を観察することが大切です。

意識を失っていないから大丈夫……ではない!
「脳振盪は意識を失うものだ」というのも脳振盪に関する代表的な誤解のひとつで、実際に意識を失うケースは脳振盪と診断されるうちの10%以下だと言われています。
意識を失うほどの強い衝撃を身体に受けている場合は、脳振盪だけでなく、頭の中での出血(頭蓋内出血)など医師による早急な処置が必要な緊急事態も疑われます。医師やアスレティックトレーナーなどの専門家がいない場合は、倒れている人を動かさずに救急車を呼びます。

意識を失うこと以外にも、「脳振盪の疑いあり」としてためらわずに救急車を呼ぶ必要のある症状は以下の通りです。
・くびが痛い/押さえると痛む
・一瞬でも意識を失った
・ものがだぶって見える
・反応が悪くなってくる
・手足に力が入らない/しびれる
・嘔吐する
・強い頭痛/痛みが増してくる
・落ち着かず、イライラして攻撃的
・発作やけいれんがある
これらの症状は、医師や専門家がいないスポーツ活動時に、脳振盪を見逃さないために、その場にいるコーチや保護者の方が判断できるよう作成された「脳振盪を疑ったときのツール(CRT5)」の「ステップ1:警告—救急車を呼びましょう」に明記され、1つでも当てはまれば救急車を呼んでください。

脳振盪の原則:脳振盪を疑ったらプレーから外す
脳振盪の対応として重要になるのが「脳振盪を疑ったらプレーから外す」という原則です。脳振盪は、頭部またはそれ以外の部位に衝撃が加わり、その振動や揺れが脳に伝わり起こる脳の機能の障害です。脳への振動が強ければ、頭蓋内出血を起こす恐れがあります。
注意しなければならないのが、頭蓋内出血や脳振盪は「受傷してしばらく経ってから時間差で発症することがある」という点です。
骨折や脱臼などの怪我は、受傷してからすぐに症状が現れますが、頭蓋内出血や脳振盪の場合には、受傷した直後は何も症状がなく、帰宅してから、または翌日の朝起きたときに症状が現れることがあります。
脳振盪を疑ったものの、外見上や言動にも何も異変がなく、選手も「大丈夫!」と言ってプレーを再開し、次に脳への振動を起こすような衝撃が身体に加わった場合に、頭蓋内出血が起こり不幸にも亡くなったというケースが報告されています。また、プレーを中止せずに継続させ、その後症状が現れた場合、競技復帰までの期間が長くなるという研究結果もあります。
したがって、脳振盪による後遺症や死亡事故、競技復帰への遅れを防ぎ、円滑に競技復帰させるためには、脳振盪を疑った場合「プレーから外す」ことが大原則なのです。
段階的な復帰
スポーツ中に起こる脳振盪については世界中で研究されていて、日々情報が更新されています。数年前までは「症状が完全に無くなるまで絶対安静」とされていましたが、今は「症状が悪化しない程度であれば早期に(スポーツ以外の)日常生活を始めても安全」とされています。
脳振盪受傷後の24時間から48時間は身体的・精神的休息をとり、その後は日常生活であれば症状が悪化しない範囲で活動をし、徐々に活動レベルを増やしていくことが重要です。
スポーツ活動に安全に復帰するためには、脳神経外科医などの専門医の診察・診断・治療が必要です。なるべく受傷日に専門医を受診し、頭蓋内出血など脳振盪以外の病態がないかを確認するようにしてください。また、症状が無くなってから、専門医の管理下で競技団体のガイドラインに沿って段階的に復帰する必要があります。
脳振盪の症状・程度は多岐にわたり、症状を悪化させたり、症状を再出現させたりするきっかけにも、かなりの個人差があります。それぞれの症状に合わせて段階的に競技復帰することによって、脳の機能が回復していることを確認していきます。
大人に比べて子どもは脳振盪から回復するまで時間がかかるため、より慎重に進める必要があります。
脳振盪に関する啓発、そして行動変容へ
脳振盪に関する知識を身につける必要があるのは、コーチや保護者の方だけではありません。プレーする子どもたちも自分自身の異変やチームメイトの異変に気付けるように脳振盪について学習し続けることが大切です。
そして、異変に気付いた時に近くにいる仲間や大人に申告したり、助けを求めたりすることができるような心理的安全性が高い人間関係や環境を構築しておきましょう。それは、スポーツ現場にいる人たちの命を守るための重要な取り組みと言えます。

※当記事は(公財)スポーツ安全協会より記事提供を受けています。