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テーマ1:サッカー選手が、長く活躍し続けるために必要な要素は?
将来にわたって長くスポーツ界で活躍するためには、どのようなトレーニングやコンディショニングを行うべきか? また、そのようなアスリートを育成するためには、どのようなサポートをすればよいか? とお悩みの方々にとって、大きなヒントになるお話を、Jリーグ・ヴィッセル神戸所属の酒井高徳選手、そして酒井選手をサポートする大塚慶輔氏に語ってもらった。
ドイツと日本、遠隔で始まった「マルチサポート体制」
酒井選手は、ユースの日本代表に始まり、日本代表として3回のW杯を経験、シュトゥットガルト、ハンブルガーSVでプレー。ハンブルガーSVではブンデスリーガ史上初の日本人キャプテンを務めた。約20年にわたり、大きな怪我もなくトップレベルで活躍し続ける酒井選手を、ユース時代も含め約17年にわたって支えてきたのが大塚氏だ。
今回のセッションのタイトルにもなっている「チーム高徳」とは、大塚氏と複数の専門家からなる酒井選手のサポート体制のこと。
この図の中心にいるアスリートが酒井選手、パフォーマンスコーチが大塚氏。ほかに、メンタルコーチ、スポーツ栄養士、スポーツドクターなどのプロフェッショナルがそれぞれの分野から支えるマルチサポート体制をとっている。
大塚氏はこのようなスキームを確立し、さまざまなアスリートやビジネスパーソンをサポートする事業も行う。
「このサポート体制は、シュトゥットガルトに移籍した頃(2011年)に始まりました。海外生活で、栄養や休養のコントロールとパフォーマンス向上を大塚さんと自己管理。二人だけで達成するのは難しく、各種専門家の客観的な意見やサポートをもらい、自分はパフォーマンスを出すことに専念したかったんです」(酒井選手)
一方の大塚氏は、以前から「運動」「栄養」「休養」は包括的にサポートするべきと考えていた。酒井選手からの依頼を機に、専門家の方々と一緒にチームを作ることを提案。お互いの意見が一致し、「チーム高徳」として運用を開始した。
外国人選手とのフィジカル面の圧倒的な差を埋めるために行ったこと
「最初に感じた壁は、フィジカル面の違い。身体の大きさだけでなく、スピードや強度にも圧倒的な差があった。そして90分、120分間戦い抜ける体力、メンタリティを持っているというのが衝撃だった」(酒井選手)
そんなチームの中で自分がレギュラーをどうやって掴み取るか。強いフィジカル、コンディションを備えた上で戦わなければならないと考えたという。
「まず当たり負けしない身体、筋力をつけるため、自分より体格の大きい選手をあえて選んで1対1の練習を毎日繰り返し、具体的にどのくらいのスピードや力が必要なのか?など突き詰めていきました。大塚さんにもアドバイスを受けながら、例えばスプリント、ターンからの初速、筋力トレーニング……など自分の力を100%発揮できる距離感、筋力の使い方はどうなんだろうと細かく見ていきました」(酒井選手)
ユース時代から、ヨーロッパや世界で活躍できる選手になりたいという目標があり、それが酒井選手の原動力だった。また、現地ではしっかり自分を主張することが重要だと気付き、パフォーマンスだけではなく、自分の考えを主張することが世界に通用するために必要だと感じたという。
自分から逃げてしまった苦い後悔、からの復活
「シュトゥットガルトでレギュラーになったのですが、2014-15年の後半はなかなか出場機会を得られずにそのままシーズンが終わり、信頼する監督からの誘いもあり、ハンブルガーSVへの移籍が決まりました。一度スイッチをオフにしてリフレッシュしようと思い、日本で2週間の休暇をとりました。ところが、ハンブルガーSVの開幕戦で4部チームを相手に初戦敗退、全失点が自分絡みという苦い経験があったんです」(酒井選手)
コンディションが100%ではない時にいいパフォーマンスができるわけがないということに改めて気付いた酒井選手。そこからはコンディションを常にキープすることに専念。移籍から半年間ほど試合に出ることができなかったが、今度チャンスが来た時は絶対逃さないという気持ちで常に準備を怠らなかった。
その後、スタメン選手の怪我で交代出場となった時には、「なんでこんなにいい選手を出してなかったの?」と評価を受けるくらいの良いパフォーマンスを発揮できたという。この期間の経験は、サッカー人生の大きなターニングポイントになり、「常に準備をしておく」、そこからは絶対自分はブレないということを決めた。
その時期を知る大塚氏は、「彼自身が考えて行動し、それが維持できたこと、それが酒井高徳選手の凄みだと改めて思います」と語った。
テーマ2:育成年代でやっていたこと・やっておくべきことは?
選手自身が失敗から学び、意識を変えていけるよう見守る
ユース時代から大塚氏の指導を受けていた酒井選手。元々セルフコンディショニングの意識は高かったというが、最初から順風満帆だったわけではなかったともいう。
「高校時代に、腰痛持ちだったため、シーズンオフにケアするよう指導されました。しかし特に準備せずシーズンに入り、案の定、腰痛が再発。大塚さんからは『オフに何をしてたの? 自分で管理しないやつは面倒みられないよ』と突き放されてしまい、それ以来、自分の身体をしっかり考えなければと意識が変わりました」(酒井選手)
これは大塚氏にとっては想定内の出来事だった。その失敗から本人がどう学んでいくかが大事だと考え、あえて突き放したというのだ。酒井選手が立ち直っていく方法を、同世代の選手たちも学び、皆が自分で考えてアクションを起こす空気が生まれたという効果もあったという。
主体的に行動するようになる仕組みと、フィードバックの重要性
とはいえ、若い選手たちが常に意識高く、セルフコンディショニングを持続する難しさは指導者ならご理解いただけるだろう。持続するコツ、指導の仕方について、大塚氏は続ける。
「このピラミッドのように、いいゲームパフォーマンスを発揮するには、良い心身の状態が必要で、その元になるのが生活習慣、ライフスタイルなのです。現在のパフォーマンスと、目標とするパフォーマンスの内訳は、同じピラミッドでも大きさが違います。そのギャップを埋めるのがトレーニングで、このサイズを大きくするには時間がかかる、とよく話します」(大塚氏)
主体的なコンディション管理のサイクルをつくるために、まず導入としてピラミッドの話をする。内発的意欲を高め、自分の課題を解決するためにはどういうトレーニングをすればいいのだろう? と主体的行動ができるように促す問いかけを行う。具体的にプログラムをこなし、自分に変化を感じると、達成満足が生まれ、指導者からフィードバックを受けることで自信が芽生える。そして次はどうするか、と新しい課題に向かうようになる。このようなサイクルを繰り返し回し、自ら判断し行動するようになるというものだ。
「このサイクルは酒井選手も実践していて、ドイツ時代は週ごとに、練習の振り返りや、ゲーム内容、次週の課題などを1時間ほど話してくれていました。『今週はこんなコンディションで、結果はこうだった』『来週はこうしていく』といったふうに。パフォーマンスだけでなく、立ち居振る舞い、コメントなども含めて、毎週自分の中で整理して共有してくれていましたね」(大塚氏)
酒井選手は、この図にある「フィードバック」部分を、数値やグラフで共有されていたこと、週に1時間の大塚氏との対話を源に、主体的なコンディション管理を行っていた。少しずつ自分で成長を実感でき、結果が出れば出るほどやる気が増していくサイクルだ。
育成年代でもプロも同じく、睡眠・栄養・運動のバランスが大切
ベースとなるライフスタイル(生活習慣)で大事なことは、睡眠・栄養・運動のバランス。プロアマ問わず、早くしっかり寝て睡眠を取ることが基本。睡眠の質を高めるためには逆算して何時に寝るか、食事は何時に摂るか。朝は何時に起きて何を食べればいいか。「『早寝・早起き・朝ご飯』。育成年代は、まずはこれを保護者と選手が一緒に取り組むといいと思います」(大塚氏)
「ドイツ滞在時代に自炊していた時は、チーム高徳の管理栄養士さんに相談してメニューを決めていました。作ったものを写真に撮って送り、フィードバックをもらって改善していく。ここでもフィードバックが役立っていました。自分の話、考えを聞いてもらって対話する。そしてフィードバックをもらう。育成年代の親や指導者の皆さんには、お子さんたちが主体的に考えて自発的に行動できるような問いかけや、やる気を起こすフィードバックをぜひやってあげてほしいなと思います」(酒井選手)
育成年代の選手が、自らコンディション管理するようになるには?
育成年代の選手が自己管理を行うことは容易ではありませんが、まずは何から始めればよいのか、お二人からアドバイスをもらった。酒井選手は、「まず自分がどうなりたいかを設定し、そのために自分が何をしなければならないかを考える」ことが大事だと語る。「そのためにこのトレーニングや取り組みがある、と考えられるといい」。いろんな情報がある中で、自分に何が必要かを選択するときにも、目標が定まっていれば進む方向が決まってくる。
大塚氏は、「つい誰かの成功例を真似してしまいがちだけれど、真似をするなら『人ではなくコンセプトを重視するべき』ですね」。先ほど紹介したピラミッドや主体的なコンディション管理のサイクルが、まさにコンセプトの部分、指導者と選手がそこを共有し、ブレずにやっていくことが重要だと語った。
なお、大塚氏が手がける事業の一つとして、このスポーツライフマネジメントをコンセプトから学べるジュニアアスリートサポーター養成講座を、保護者や指導者を対象に開催している。(詳しくはリンク先をご覧ください)
TORCH Live Meeting Vol.5「『チーム高徳』と議論する 長く活躍できる選手を育てる」セッションは、この後、お二人へ多くの保護者や指導者からの質問が寄せられ質疑応答パートでも熱い議論が交わされた。
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文/河津万有美