記事提供:スポーツ安全協会

ストレッチを武器に!楽しくスポーツをするためのストレッチ戦略

今回は、スポーツのウォーミングアップやクーリングダウンために「ストレッチ」をどのように取り入れると良いか、最低限押さえておきたいポイントを解説します。

筆者

筆者
陣内 峻
NPO法人スポーツセーフティージャパン ディレクター

ネバダ州立大学ラスベガス校キネシオロジー学部卒 米国BOC公認アスレティックトレーナー(ATC) 総合学園ヒューマンアカデミー、学校法人三幸学園東京リゾート&スポーツ専門学校、日本健康医療専門学校非常勤講師 都立武蔵中学校・高等学校サッカー部トレーナー 米国スポーツ医学アカデミー公認フィットネスエデュケーター

2種類のストレッチを使いこなす

ストレッチ戦略

スポーツ現場で活用されているストレッチは「静的ストレッチ」と「動的ストレッチ」の2種類です。この2種類のストレッチをスポーツ現場で使いこなすには、静的ストレッチと動的ストレッチのそれぞれの特徴を理解する必要があります。

まず、静的ストレッチとは、ゆっくりと“痛気持ちいい”程度に筋肉を伸ばし、筋肉の柔軟性を高めて関節の可動域を拡大するものです。

「ウォーミングアップで静的ストレッチをするとパフォーマンスが落ちてしまう……」。このようなストレッチの誤解を持ったコーチや保護者が一部いらっしゃいますが、それは「静的ストレッチで30秒程度筋肉を伸ばした後に一時的に筋肉が発揮する力が落ちたという研究」の結果を誤解しているものと思われます。

実際のスポーツ現場でウォーミングアップ中に30秒間1つの筋肉を静的ストレッチだけを行って伸ばすことはほとんどありません。ウォーミングアップはそもそも心と身体の準備をすることが目的で、心拍数を高めたり、筋肉の温度を高めたりするものです。1箇所につき30秒間もの静的ストレッチをしていたら、心拍数も筋肉の温度も下がってしまい、ウォーミングアップの目的には合っていません。

一方の動的ストレッチとは、静的ストレッチと違ってラジオ体操のように身体を動かしながらストレッチをする方法です。ラジオ体操は比較的、全身を動かすストレッチになりますが、動的ストレッチは全身だけではなく、肩や股関節など一部の部位だけ集中して動かす方法もあります。

静的ストレッチはゆっくりと筋肉を伸ばしますが、動的ストレッチでは身体をテンポ良く動かすため、ウォーミングアップとしてさまざまなスポーツ現場で活用されています。静的ストレッチだけではウォーミングアップとしてはマイナスの効果もありますが、ウォーミングアップの一部として活用する方法があるので次項でご紹介しましょう。

ウォーミングアップでの静的ストレッチの活用法

ウォーミングアップで静的ストレッチを活用する方法のひとつは、筋肉の張りを改善したいときです。ウォーミングアップでジョギングや動的ストレッチ、ダッシュなどをした後に、各自で筋肉の張りなどがある部位に対して静的ストレッチをするように伝え、それぞれ取り組んでもらいます。

このようにウォーミングアップの最後に各自に静的ストレッチを任せることによって、一人ひとりのニーズに合わせて取り入れることができます。静的ストレッチはチーム全体で時間を確保するのではなく、ウォーミングアップ終了時の水分補給などをするタイミングで、必要であれば各自で実施するよう促せば、流れがスムーズでしょう。

静的ストレッチをチーム全体でウォーミングアップの一環として活用するなら、競技特性を考慮しながら、ウォーミングアップ全体のうち最初に取り組むことをお勧めします。例えば野球では肩や肘など、特に負担がかかるところはパフォーマンスアップと同じくらい障害予防が大事なので、ウォーミングアップ時に時間をかけて入念に行うなどの工夫が必要です。最初に取り組むことで身体の状態を現状把握することもできます。

ここでいう競技特性とは、その競技でよく動かす部位や関節、起こりやすい障害や外傷のことです。

競技特性と外傷障害リスクのある部位

サッカー、野球、バスケットボールの競技特性

障害や外傷の予防だけでなく、高いパフォーマンスを発揮するためにはコンディショニング(パフォーマンスを最大にするため身体的な準備を整えること)が重要です。このコンディショニングのためには選手自らが自分自身の状況や体調を把握する能力を高める必要があります。

静的ストレッチでゆっくりと筋肉を伸ばすときには自分の身体と会話し、身体の状態を認識できるようになるので、トレーニングとしてストレッチを取り入れるとよいでしょう。ただし、冬場の屋外スポーツなど寒い環境でウォーミングアップをする際には、身体がすぐに冷えてしまうため、静的ストレッチの活用は注意が必要です。ウォーミングアップでストレッチを活用する際には、心拍数や体温への間接的な影響を考慮して、練習や試合への最善の準備になるようにしてください。

クーリングダウンは静的ストレッチ一択‼︎

ウォーミングアップにおけるストレッチ戦略は難しかったかもしれませんが、クーリングダウンでは静的ストレッチを選んでください。

ゆっくりと“痛気持ちいい”程度に筋肉を伸ばす静的ストレッチは疲労の蓄積が原因となる柔軟性の低下を防ぎ、障害予防だけではなくリカバリーを促進してくれます。スポーツや運動後に筋肉の柔軟性が低下したり、筋肉の張りを感じるのは身体的ストレスに対する自然な身体の反応です。クーリングダウンで静的ストレッチをすることは頑張った自分の身体への労いでもあり、次回、高いパフォーマンスを発揮するための準備にもなります。

ウォーミングアップとクーリングダウンでうまく静的ストレッチと動的ストレッチを使い分けて、スポーツを楽しんでください。

 

※当記事は(公財)スポーツ安全協会より記事提供を受けています。