記事提供:スポーツ安全協会

倒れてから3分以内にAEDが使える準備、できていますか?

AED(Automated External Defibrillator)は、自動体外式除細動器と言います。心停止の人を救命するための医療機器で、2004年7月から一般の人でも使えるようになり、今年で20年が経ちました。今回はスポーツ現場のAEDについて、最低限押さえておきたいポイントと具体的な活用方法をご紹介します。

筆者

筆者
陣内 峻
NPO法人スポーツセーフティージャパン ディレクター

ネバダ州立大学ラスベガス校キネシオロジー学部卒 米国BOC公認アスレティックトレーナー(ATC) 総合学園ヒューマンアカデミー、学校法人三幸学園東京リゾート&スポーツ専門学校、日本健康医療専門学校非常勤講師 都立武蔵中学校・高等学校サッカー部トレーナー 米国スポーツ医学アカデミー公認フィットネスエデュケーター

AEDに備わった2つの機能とは?

AEDは電気ショックを与える機器ですが、もう1つ重要な機能があります。それは電気ショックが必要かを判断する心電図の解析です。

電気ショックが必要ではないと判断されると、ショックボタンを押しても電気は流れません。ただし、AEDのショックボタンを押すときには必ず、「からだから離れてください」と言いながら倒れた人に誰も触れていない状態を確認して押すように注意してください。最近では、「オートショックAED」というショックボタンを押さなくてもAED自体が必要性を判断し自動的に電気ショックが⾏われるタイプも普及しつつあります。

電気ショックが必要と判断されるのは、心臓がけいれんを起こし、脳や全身へ正常に血液を供給できなくなっている状態(心室細動)に限られます。

心臓の働きが極端に弱くなっていたり、心臓が完全に止まっている状態では、一般市民が使えるAEDは「ショックは不要です/ショックの必要はありません」とアナウンスします。この場合は、AEDの次のアナウンスに従ってください。

AEDのパッドが装着されると自動的に心電図の解析が始まり、電気ショックが必要かどうかを判断するので、倒れて意識がなく、普段通りの呼吸がない人に対しては迷わずにAEDを使うことが重要です。

倒れてから3分以内にAEDを使用
緊急時と判断したときには救急車とAEDの調達を要請。AEDのパッドを貼ることによって自動的に心電図を解析

 

早さが明暗を分けるAEDの電気ショック

電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約7〜10%ずつ低下します。一般的に心停止が5分以上続くと脳障害が発生し、10分以上続くと救命はほぼ不可能と言われます。

令和5年版消防白書では119番通報をしてから救急車が到着するまでの平均時間は10.3分と報告されているため、救急車が到着する前からスポーツ現場にいる人が胸骨圧迫やAEDの電気ショックを開始することが非常に重要です。

日本循環器学会と日本AED財団は「スポーツ現場における心臓突然死をゼロに」の提言のなかでスポーツ現場では3分以内にAEDを配置するよう発表しました。

なお、人が倒れてから3分以内の電気ショックを実現させるには、単にAEDを近い距離に設置すれば良いというわけではありません。これを実現させるためには、「知る」「備える」「整える」の3つのスポーツセーフティーアクションが必要です。

スポーツセーフティーアクション
安全な環境を構築するためのスポーツセーフティーアクションは「知る(ヒト)」「備える(モノ)」「整える(体制)」

1. 知る

倒れてから3分以内の電気ショックを実現させるスポーツセーフティーアクションの1つ目は「知る」ことです。

AEDを往復2分以内の距離に設置していたとしても、倒れている人にAEDが必要だと判断するのに時間がかかってしまえば救命の確率は低くなります。倒れている人の「意識があるか」を確認して、意識がなく、緊急事態と判断した場合には救急車とAEDを要請します。迷ったときには最悪な事態を想定して行動してください。

倒れ方は仰向けだけでなく、うつ伏せや横向きなどさまざまな姿勢が想定できますので、仰向けにして救助できるよう訓練しておきましょう。野球のキャッチャー・審判やアメリカンフットボールなど防具を装着している選手が倒れることも想定されるので、AEDを装着するために必要な防具の外し方も覚えておくとよいでしょう。

2. 備える

備えるモノはAEDです。AEDは購入することもできますが、スポーツイベントなどであれば、レンタルも可能です。無料で貸し出している自治体もあります。

週末に学校の校庭で活動する少年団のチームについては、学校にAEDがあったとしても校舎に鍵がかかっていてAEDにアクセスできない場合もあるので、「AEDがある」だけでなく、「アクセスできるのか」「どのようにアクセスできるのか」を確認してください。

3. 整える

正しい知識とスキルを身につけた「ヒト」がAEDを適切かつ迅速に使用して救急対応をするためには「体制」を整える必要があります。

スポーツ現場で緊急事態が起こったときに適切かつ迅速に救急対応を実施するために事前に作成されるエマージェンシーアクションプラン(EAP:緊急時対応計画)を基にシミュレーション訓練を行います。シミュレーション訓練では、突然心停止が原因で緊急事態が発生したと想定して、お互いに連携しながら救急対応ができるかを検証します。

特に、突然心停止のシミュレーション訓練では、下記の時間経過を確認し、必要に応じて改善策を講じることが重要です。

・倒れてから何分後に緊急事態と判断できたか
・倒れてから何分後に救急車とAEDを要請できたか
・倒れてから何分後に胸骨圧迫を開始できたか
・倒れてから何分後にAEDが到着したか
・倒れてから何分後に1回目の電気ショックができたか

シミュレーション訓練でEAPを検証し、必要に応じてEAPをアップデートして事前に体制を整えます。

試合や大会などのイベント当日は、最終確認としてEAPハドルという事前ミーティングを実施します。実際のスポーツ現場で関係者が顔合わせをして、AEDの場所や救急車・救急隊員の誘導経路などEAPに基づいて短時間で最終確認をしましょう。

AEDハドル
救急体制の最終確認をする当日の事前ミーティング「EAPハドル」をEAPに基づいて行うことで実際に緊急事態が起こったときにより効率の良いスムーズな対応が可能

 

AEDの具体的な活用法

スポーツや運動をする前には少なくともどこに最寄りのAEDがあるかを把握しましょう。

ここからは、成人が倒れてからどのようにAEDを活用していくかの手順についてJRC蘇生ガイドライン2020「市民用BLSアルゴリズム」に基づいて簡単に紹介します。

1. 周囲の安全確認

倒れた人を見つけても、すぐに近づくと危険な場合があるので、必ず周囲の安全を確認して自分の安全を確保するようにしてください。周囲の安全が確認できたら、倒れた人が動いていないか、話していないかなど観察しながら近づきます。

2. 意識の確認

倒れた人に近づいたらまず、意識を確認します。肩や胸を軽く叩きながら「大丈夫ですか」と声をかけ、顔などの反応を見ながら意識の状態を確認してください。意識がなければ緊急事態と判断し、救急車とAEDを要請します。

3. 呼吸の確認

次に、胸と腹部の動きを観察して、普段通りの呼吸をしているかを確認します。呼吸の確認は、10秒以内で行ってください。

以前は呼吸の有無の確認でしたが、現在は、普段通りの呼吸をしているかどうかで判断します。気をつけなければならないのが、しゃくりあげるような不規則な呼吸(死戦期呼吸)で、これは心停止のサインのひとつです。

普段通りの呼吸をしているかどうかで迷ったときには、「普段通りの呼吸なし」と判断します。

4. 胸骨圧迫

「普段通りの呼吸をしていない」場合には、胸骨圧迫を開始します。

胸骨圧迫は、胸が約5cm沈む程度の深さで、1分間に100回から120回のテンポで押すことによって、心臓から脳などの重要な臓器に血液を送り出します。

5. AEDの使用

胸骨圧迫をしている最中にAEDが到着したら、すぐにAEDの電源を入れ、音声ガイダンスの指示に従います。AEDによって心電図を解析しているときと電気ショックを行うときは、誰も倒れた人には触れないようにしてください。

千葉市消防局の以下動画が心肺蘇生法を分かりやすく説明していますので、ぜひご覧ください。

心肺蘇生法(成人用)
心肺蘇生法(小児用)

AEDで救助を行った後は

AEDの電気ショックはすべての突然心停止に対して有効というわけではありません。残念ながらAEDを適切に使用しても救命できないケースがあります。

AEDの使用を含めた緊急対応をした人が心的ストレスを感じたり、眠れないなどの不調を感じたりした場合には、医師などの専門家に相談するようにしてください。

 

※当記事は(公財)スポーツ安全協会より記事提供を受けています。