スポーツテックとは
スポーツテックとは、インターネットなど情報通信技術、センサー技術、AIやデータ分析技術、ロボットなど機械工学といった幅広い分野の技術革新によりスポーツに用いられるようになった技術のことをいいます。
スポーツの「見る」「する」「支える」それぞれの側面でスポーツテックは活用されており、例えば、観戦体験の向上、道具や環境の進化によるユニバーサルスポーツの実現、パフォーマンスの可視化……といったように、スポーツテクノロジーが身近なものになり、幅広い人たちがその恩恵を受けられる時代になってきました。
また技術革新とともに、欧米で先行されてきたスポーツ科学研究が日本でも発展してきたことも、スポーツテックが豊富に生まれてきた背景と重なります。テクノロジーとサイエンスの両輪で、分からなかったことが解明され、再現性を高める方法が確立・普及してきました。
スポーツテックで広がる可能性

スポーツテックに応用される代表的な技術といえば、AI・データ解析技術、VR・AR技術、センサー技術でしょう。AI・データ解析技術を活かした例として、アプリケーションに搭載されたAIが、撮影した映像から自動で動作データを解析し、パフォーマンス改善のための修正点が提案されたり、練習データを入力し続けることでAIが学習し弱点分析などの結果が得られたりするなどのパターンがあります。
現代の子どもたちはすでにテクノロジーを活用して学習や生活をしています。スポーツにおいてもっと導入が進めば、子どもの身体活動への取り組み方や指導スタイルを根本的に変えていく可能性があります。現在もすでに取り入れることができるデジタルツールをいくつか見てみましょう。
- フィットネス関連アプリ:ゲームと連動して身体を動かしたり、スタンプを貯めることで習慣化したりするようなものがあります。
- ウェアラブルデバイス:歩数計、運動のリマインダー、アクティビティトラッカー、睡眠トラッカーや生体データセンサーを内蔵するものもあります。運動が可視化されることが刺激になり、身体を動かすことへのモチベーションを促進します。
- VR、AR(Virtual Reality=仮想現実、Augmented Reality=拡張現実):ゴーグル型デバイスを装着し、デジタルコンテンツと物理世界が融合し、いつどこにいてもゲーム感覚で運動をするのに簡単な準備で始めることができるメリットがあります。
わくわくしながら楽しく継続的に運動や体調管理できるよう工夫を凝らしたデジタルコンテンツが多いのが特徴です。しかし日本ではまだまだ子ども向けフィットネスコンテンツは少なく、先行する海外では、リモートコーチングやバーチャル体育授業が行われていたり、身体や健康に関するeラーニング教材が普及していたり、成長に合わせてパーソナライズされたトレーニング計画が提供されるアプリなど進化を遂げています。
ウェアラブルデバイスで可能になること
パフォーマンスを可視化する

アスリートや指導者、保護者にとって一番身近なスポーツテックといえば、ウェアラブルデバイスではないでしょうか。代表的なウェアラブルデバイスとして、スマートウォッチがあります。スマートウォッチを身につけてランニングするだけで、内部の光学式センサーが人の生体情報(心拍数や血中酸素濃度など)を取得し、位置情報センサーも内蔵されていれば、走行距離やスピードも分かります。
スマートフォンやタブレットのトレーニングアプリと連携すれば、データ解析してランニングや筋トレの効果を可視化できるでしょう。さらに複雑な解析を行い結果をフィードバックすることができたり、コミュニケーションをとることができるアプリもあります。
競技特性によって、活用できるデバイスにも特徴があります。サッカーやラグビーなど広いフィールドでプレーするチームスポーツでは、選手の負担を低く抑えるため背中にポケットのついたウェアを身につけ、そのポケットにセンサーを入れます。そのセンサーは位置情報システム(GPSなどGNSS)と通信を行い、パフォーマンスを可視化します。それらのデータに基づき監督やチームスタッフは戦略や戦術の検討を行っています。
バスケットボールなど屋内スポーツにおいても、身体につけたセンサーがコートの位置情報や選手の動きを割り出し、パフォーマンスを数値化するシステムがあります。
ケガ・障害予防に活かす
高校野球で「球数制限」という言葉を聞いたことがある人がいるかもしれません。これは選手の身体を守るためにルールとして設けられたものです。
やりすぎや疲労の蓄積はケガの原因のひとつと言われていますから、スポーツテックが普及してデータでパフォーマンスが可視化されるようになると、アラートを出したり限界点が表示されたりすることで無理をさせることを防げるようになりました。
全てのケガの原因がデータ分析で解決できるわけではありませんが、過度な運動負荷によるケガや障害の一部は防げる・防ごうという意識の変化も見られるようになってきました。
根拠に基づいた指導ができる
これまでのスポーツ指導においては、競技経験のある指導者が自身の経験則を拠り所にして指導するしかありませんでした。しかし、スポーツテクノロジーとサイエンスが普及しつつある現在では、選手の個性に合った指導や、競技特性やチーム戦略などさまざまなデータを掛け合わせて分析し、コーチングに活かすことができるようになりました。
自分のパフォーマンスや能力が数値化されたり可視化されることで分かりやすい目標ができ、ステップに合わせた指導を受けることができれば、少しずつスキルアップしていくことができるでしょう。頑張ったことが数字になって現れることで、モチベーションにつながるという良い面があります。
一方、数値化されることが何よりも重視されるような環境になってしまうと逆効果になる場合もあるため、数字だけ見るのではなく子ども・選手の個別性にも目を向けること、時に経験則に頼ることも大切なことであると認識しておいてください。
将来のスポーツ界に求められる技術スキルへの展望
さまざまなデータが可視化され蓄積されていくことにより、トップアスリートがこれまでどういう練習を経てどういう成長を遂げ、成績を残してきたのかが分かるようになる世界もそう遠くないでしょう。ただし、その解析を行うためにはデータの粒度や種類、期間や形式などが統一され連綿とした一連のデータである必要があります。
もしそのような世界観が実現できれば、早期からトップアスリートになることを視野に入れたトレーニング方法が確立されていくかもしれません。
今後ますます発展するスポーツテックとスポーツ科学ですが、より一層安価で手頃に導入できる時代がやってくるでしょう。競技特性やチームの目標に合わせて上手に取り入れ、効率化・強化を図りましょう。
文/TORCH編集部 大家純子
※当記事は(公財)スポーツ安全協会より記事提供を受けています。