スポーツスクール事業で培ったノウハウを生かし部活動改革を支援[名古屋市立小学校262校のケース]

教員の働き方改革(長時間労働の是正など)に伴い進められている部活動改革。文部科学省の計画では、2023年には休日の部活動が段階的に外部へ移行される。これまで放課後や休日に教員が行っていた部活動指導を、地域の外部指導者や外部のスポーツクラブなどが行う体制へと見直そうというものだ。各地での進捗をリポートしていく。 今回は、スポーツスクールの運営を手掛けるかたわら、自治体や学校と「共動」し部活動支援事業を手掛けるリーフラス株式会社にインタビューを行った。部活動外部化の支援を行うキーパーソンたちに、現在受託運営している名古屋市内にある262の小学校の部活動改革を例に、話を伺った。

インタビュイー

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昆 享康
リーフラス株式会社 常務取締役 ソーシャルアクション統括本部長

1984年生まれ、宮城県出身。2006年4月リーフラス(株)に入社。サッカースクールの指導員を経て2017年7月からソーシャルアクション統括本部長を務めている。

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永冨 剛
リーフラス株式会社 常務執行役員 地域共動推進事業部長

1969年生まれ、福岡県出身。東海大学体育学部武道学科卒業後、高校保健体育教諭を経て、2009年4月リーフラス(株)に入社。剣道事業部を立ち上げ、当時グループの専門学校副校長を務めた。2019年4月からリーフラス(株)常務執行役員・ソーシャルアクション統括本部 地域共動推進事業部長、2020年6月からリーフラス地域共動(株)代表取締役を務めている。

参加児童数3万人。名古屋市立小学校262校の部活動を受託運営

自治体〜学校〜保護者間の調整、システム、指導者の配置まで、部活動運営ノウハウをワンストップで提供するリーフラス

リーフラス株式会社は、2001年の設立と同時にサッカースクールを開設し、20年以上全国でスポーツスクールを運営してきた実績のある企業だ。10年ほど前、同社の部活動支援事業がスタートした当初、いずれ教員による部活動運営の形は変わっていくだろう、という予感はあったという。

しかし当時はまだ、現在のような外部委託化の動きにまで至らなかった。ところが近年、教員の過酷な勤務実態が明るみに出て学校の業務改革、働き方改革が始まった。課外活動である部活動の改革が急務となり、現在は、2023年から休日の部活動を地域移行するための検討が、各地で始まっている。

そうした状況の中で、部活動支援のニーズが急速に伸びていると話すのは、同社で常務取締役を務める 昆享康(こん たかみち)氏と部活動支援事業の責任者、永冨剛氏。「今、対応しきれないくらいのお問い合わせをいただいています」と話す。公立学校・学校法人だけでも、これまで年間10~20件の問い合わせだったのが、今では倍近くに急増しているという。

「どうすればいいだろうか、というご相談のお問い合わせが増えました。生徒数や既存の部活動の運営状況、外部スポーツクラブなどの存在の有無など、学校はもちろん、地域により部活動における課題が異なるので、解決方法がひとつでないのが難しいところです。現在一番多い運営スタイルとして、『地方自治体主導型』で推進するケースです。ほかに学校主導で行うケース、地方自治体と受益者の協同型で行うケースなどがあります。行政との調整、学校との調整、地域・保護者との調整、システム、指導者の配置など、部活動運営のためのノウハウをワンストップで提供できるというのが弊社の強みです」と永冨氏。

リーフラス株式会社提供 - 部活動改革

地域人材を部活指導者として活用する人材バンク、部活と児童・保護者の連絡をつなぐ指導管理センターを立ち上げた

案件ごとに、学校が主体になる場合、自治体が主体になる場合と、さまざまあり、その財源も異なる。一つ一つ地域のニーズに合わせて最適な形をつくってきたと話す。そのうちのひとつ、名古屋市立262の小学校、参加児童数3万人に上る、体育系・文化系部活動支援の事例を紹介してもらった。

名古屋市教育委員会から委託を受けたその案件は、2020年9月の運用スタートにあたり3月に公募された。公募時に地域住民を指導者として活用することが条件に含まれていたため、受託後、指導者を集め管理・配置するための人材バンクの設立・運用、そして部活動の運営と、一括で事業を推進していった。受託後わずか数カ月で、円滑に運営できる体制を構築した。

昆 享康氏(リーフラス株式会社 常務取締役 ソーシャルアクション統括本部長)と永冨 剛氏(リーフラス株式会社 常務執行役員 地域共動推進事業部長)

「名古屋市内の小学校の場合、規模が大きく準備期間も短かったため苦労しましたが、これまでの経験とノウハウを生かし運用開始できました。まずは部活動の中核を担う指導者を配置するために、地域限定での採用をスタートしました。当初、リーフラスの社員を指導者として配置してほしいという要望もいただきましたが、さすがに262校全ての小学校に配置する人材となると難しかったということと、さらに教育委員会で『名古屋の子どもは名古屋で育てる』というスローガンを掲げていたため、それに沿う形として地域限定採用を行いました。現在、『なごや部活動人材バンク』に登録しているのは約4,000人。そのうち半数にあたる2,000人程度の指導者が稼働しています」(永冨氏)

登録者には、競技や文化活動(吹奏楽、合唱など)の経験者でかつ退職して地域に貢献したいという60代が多いという。ほかに、主婦の登録も多かったと話す。

「指導者は、主任指導者、副主任指導者、運営補助者、の3種に分かれ、部活動の規模(人数)によって配置する指導者の体制を変えています。4校に1人、弊社正社員の統括責任者を配置し、定期的に担当する小学校を巡回することで円滑な運営を行える体制を整えました」(永冨氏)

次に、学校、指導者、児童・保護者の連絡系統を集中して行う「指導管理センター」を新設した。屋外で行う部活動の雨天の場合の連絡や、急病などで児童が休む場合の連絡など、センターで受け付けることで、指導者は指導に、統括責任者も本来の業務に集中できる体制となった。

リーフラス株式会社提供 - 部活動改革

地域移行のポイントは、予算の確保とステークホルダーの理解を得ること

地域、学校によってニーズ・課題が異なるため支援の形も多様

部活動の地域移行推進のポイントは何だろうか。

「部活動に関わるステークホルダーは幅広く、中でも保護者の皆さんに納得してもらうことは重要です。保護者の皆さんへの説明会を開いて、先生たちと一緒に丁寧に説明をし、質疑応答に応じています。

もう一点重要なのは、予算、財源の確保だと思います。部活動は無償が当たり前でした。最近よく言われる『受益者負担』についても、議論されていますが、有償になるなら相応の説明責任がありますしそれだけの価値提供を求められます。ただ、本来の誰でもできる部活動とは違うものになる可能性があることを検討する必要があります」(昆氏)

「部活動指導を継続して行いたいという先生もいらっしゃるので、副業としてリーフラスが採用し報酬をお支払いする。そして指導を続けていただくケースもあります。その場合には、弊社がガイドラインに沿って、先生としての勤務時間も含めて超過勤務にならないように労務管理も行っています」(永冨氏)

リーフラスが受託する部活動支援と教員の働き方改革のカタチは、多様である。時には学校の規定を変更する必要が出てくるため、学校と協議を重ねながら、規定の変更へのアドバイスも行うそうだ。

リーフラス株式会社提供 - 部活動改革

安全、安心に誰もが部活動に参加できる環境を提供する

最後に、リーフラスが考える部活動の理想形について聞いてみた。

「もちろん、学校や地域のニーズに合わせた形が理想ですが、私たちが最も大切にしてきたのは安全、安心に部活動ができる環境を作ることです。競技志向の高いお子さんには、競技経験・指導経験豊富な指導者の指導を受けられる場も必要。部活動を楽しみたい子、スキルを磨きたい子、いろんなお子さんがおられるでしょうから、全員が楽しめる環境づくりを重視したいですね」(昆氏)。

リーフラスが支援を行う部活改革は、全国に647校(2022年2月現在)を数える。2021年11月には同社も関わる東京都渋谷区の「シブヤ『部活動改革』プロジェクト」が話題となった。部活動運営を行う体制として、一般社団法人渋谷ユナイテッドが設立され、現在その仕組みづくりに尽力しているという。

今、全国各地で加速し始めた部活動改革の取り組み。地域や学校の事情に合わせた最適な形への模索が続く。TORCHでも注目していきたい。

 

取材・文/松葉紀子(スパイラルワークス)撮影/下山展弘 部活動写真/リーフラス提供