Day2|「チームづくり」「睡眠」「スポーツと科学」をテーマに3つのセッション
オープニング
2日目のオープニングでは、弊社代表の宮田から1日目のセッションのまとめと反響が紹介されました。その場で語られなかった裏話やTwitterで寄せられたコメントに触れました。その上でこの後続くセッションに登壇する方々の紹介とそれぞれの見どころについてご案内しました。
Session 3:「ジャイアントキリング」を成し遂げるチームづくり—キャプテンシーとチームビルディング—
「ジャイアントキリング」とは、格下のチームが格上のチームに勝つこと。このセッションでは弊社代表の橋口がモデレータを務め、キャプテンとしてチームを率いてきた廣瀬俊朗さんとチームビルディングのプロ仲山進也さんとの熱いクロストークが交わされました。廣瀬さんは『なんのために勝つのか。』、仲山さんは『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』という著書があります。
最初に仲山さんから、グループとチームの違いが示されました。私たちは普段グループとチームを無意識に使い分けているという現状に触れ、ジグソーパズルを例にグループを結束感のあるチームへと変えていく方法が紹介されました。仲山さんによれば、多くの組織ではピースの分類(グループ)で止まり、ピースを組み合わせるところまで至っていないと言います。
良くもなく悪くもない70点のチームを120点が取れるチームに変貌させるヒントを、イモムシがサナギを経てチョウになる変態にたとえて説明。チームの成長ステージは、同調、混沌、調和、変態という4つのステージで変化を遂げます。成長ステージの図では、同調と混沌はグループ、調和と変態はチームという位置づけです。グループがチームに変貌する前には、必ず赤点になる混沌の時期が必要です。本音を言わず空気を読む、がちがちに固まった同調がなんらかの力でほぐされ、本音を言えると感じ始めるのが混沌期です。
この話を受けて廣瀬さんが、ラグビー日本代表チームではどうだったかを振り返りました。日本人は相手にはっきり意見を言うのが苦手な人も多いため、対立を恐れず心の奥底にあることを言いやすい関係を作るために、ヘッドコーチのエディー氏(当時)はあえてストーミング(混沌)を生みだそうとしていたと言います。
そして話は2015年のラグビーW杯で、日本代表が南アフリカに勝つまでの過程へ。エディー氏のもと、日本代表チームが内部でどういう変遷をたどったのかに触れました。ジャイアントキリングを成し遂げる1カ月前までは混沌期だったと、当時の思い出とともに廣瀬さんは振り返りました。コーチ陣やメンバーの変化によって、チームの内部はどう変わっていくのか。キャプテンという役割から見えた当時の状況が廣瀬さんから鮮やかに語られ、仲山さんと橋口は聞き入っていました。
さらに会社組織においてもチームの成長ステージを進めるために、リアルとオンラインでの違い、リーダーの心理についての議論へ。チームを強くするために、リーダーが見えているものをメンバーに共有する可視化の大切さについても語られました。
Session 4:「良質な睡眠」がパフォーマンスやメンタルに有効なワケ
次のテーマは、「睡眠」。セッションは米スタンフォード大学 睡眠・生体リズム研究所 所長 西野精治さんからのビデオメッセージでスタートしました。「たかが睡眠」と思われがちですが、実は選手の成績は良質な睡眠と大きな関係があります。
「ずっと睡眠で悩んできた」という村田 毅選手は、過度のいびき、睡眠時無呼吸症候群で長い間熟睡することができなかったという体験談を語ります。医療機関を受診し、症状を改善するCPAP(シーパップ)を着用することで熟睡できるようになり、パフォーマンス向上も実感。その2カ月後には日本代表に招集されました。当時の村田選手は医師から、標高5000メートルの山の上にいるようなものと言われたほど。それでも村田選手は長年それが当たり前だと思って気づかずにいたそうです。
昼寝から起きたら息苦しいという村田選手を心配したチームメートや家族が受診を勧め、診断と治療につながりました。現役選手だった当時は検査に時間がかかることに抵抗があり、2年間受診をためらっていました。受診後、初めてCPAPを装着して寝て起きた翌朝は、熟睡とはこういうものか、と感じたそうです。睡眠時無呼吸症候群の推定患者は300万人以上ですが、自分にその症状があると気づいていない人も多いと言います。
一時的に睡眠が改善したものの、その後過酷なトレーニングが続き、再びよく眠れない日々が訪れ、改めて睡眠の大切さを痛感したという村田選手。現役のラグビー選手という立場のまま、2018年に順天堂大学大学院 医学研究科に入学し、睡眠を研究しました。試合への緊張感やメンバー選出のプレッシャーなど、常に大きなストレスが続くことで不眠を引き起こし、それが原因で正常な判断ができなくなるという悪循環が生まれます。こうした睡眠の状況は、コーチに言いづらい。不調を正直に伝えると、試合に出してもらえないのではないか。不眠に悩むほかの選手のためにも、こうした現状をなんとか改善したいという強い思いがあったそうです。
大学院での研究で、睡眠不足は脳の機能を低下させること、睡眠がパフォーマンス向上につながることなどがさまざまな角度から明らかになりました。また睡眠不足は人間関係にも影響を及ぼすことが判明。スポーツの場合、チームワークにも悪影響があることが分かりました。現在村田さんは、学生アスリートに向けて、睡眠によって得られるものと睡眠を妨げるものを正しく理解し、良質な睡眠を取り入れることでアスリートのパフォーマンスが向上する、と睡眠について発信する活動を行っています。
後半には村田選手が良質な睡眠をとるために毎日どんなことをしているかを紹介。アイマスク、CPAP、睡眠補助機能つきヘッドバンドを着用して熟睡中の村田選手の写真も。具体的に今夜から視聴者が取り入れられそうなこともたくさん紹介していただきました。
Session 5:コンマ1秒の精度を生む、科学的トレーニングと科学的指導のすすめ
最後のセッションでは、為末 大さんと朝原宣治さんをお迎えし、科学的トレーニングについてクロストークを行いました。まず弊社宮田から、科学的トレーニングに欠かせない、データ活用事例を紹介。全選手の疲労や睡眠データの平均が、試合にどういう結果を与えているかをグラフで紹介しました。
そしてテーマは選手のコンディショニングをコントロールする際に欠かせない、客観的データと主観的データについて。ONE TAP SPORTSの活用事例では、デバイスで取得する客観的データと選手の感覚をもとにした主観データは選手によって一致しないことがありますが、ぴたりと一致するほどの感度を持つトップアスリートもいます。
現役時代、客観的データと主観的データのギャップを感じたという朝原さんですが、自身の競技映像や記録を繰り返し確認する中で自ら修正を重ね、客観と主観のずれが減っていったと語りました。それを受けて為末さんから、数値を蓄積し自身の平均値が見えてくることが、客観と主観のギャップを解消することにつながるのではという意見が。自分のコンディションの平均値が分かれば、不調のとき・調子がいいときのパフォーマンスとの関係性が見られるのでは、という話がありました。
次にONE TAP SPORTSの入力データを見ながら、その活用法が議論されました。ONE TAP SPORTSの開発当初は、「どんな項目が必要か」議論を重ねて項目が絞り込まれていきましたが、最も必要性を感じていた項目が「睡眠の質」と「疲労」に関する項目。こういったデータをどう活用するかについて、為末さんと朝原さんからトップアスリートならではの鋭い意見がたくさん示されました。
最後には視聴者からの質問に答えるコーナーも。トップアスリートのお二人が生き生きと現役時代を振り返りながらの、熱いディスカッションとなりました。
※Session 3の動画(65分)はこちらからご覧いただけます。
※Session 4の動画(60分)はこちらからご覧いただけます。
※Session 5の動画(60分)はこちらからご覧いただけます。
取材・文/はたけあゆみ