イベントレポート|チームが「1つの生命体のように」機能するチームビルディングの極意

5月10日にユーフォリア社主催で行われたオンラインセミナー「ONE TAP SPORTSラボ」では、ラグビートップリーグ・NTTドコモレッドハリケーンズのチームアドバイザーを務める福富信也氏を講師に迎えた。育成年代からプロ、ビジネスパーソンまで、幅広くチームビルディングをサポートする福富氏が考える、チームづくりのコツとは。

講師

講師
福富 信也
東京電機大学理工学部専任講師、株式会社ヒューマナジー代表取締役

1980年3月生まれ、静岡県出身。信州大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。横浜F・マリノスコーチを経て、2011年に東京電機大学理工学部に着任(サッカー部監督兼務)。 日本サッカー協会公認指導者S級ライセンス講習会で、講師としてJリーグの監督養成に携わる。2015年、企業研修・講演・スポーツ指導を行う株式会社ヒューマナジーを設立。Jリーグ北海道コンサドーレ札幌J1昇格(2016~17年)、ヴィッセル神戸天皇杯優勝(2018~19年)などをサポート。2020年は、ラグビートップリーグのNTTドコモレッドハリケーンズのチームアドバイザーを務め、チーム史上最高の8強入りをサポート。

チームを構成する「個人」が変わらないとチームは変わらない

チームとは「目標に向かって多くのものを共有し、一定期間努力を続ける固定集団」

コンディショニングに関する取り組み事例やONE TAP SPORTSの活用方法について共有することを目的に、毎月開催されている「ONE TAP SPORTSラボ」。今回のテーマは「チームビルディング」。新年度が始まり新しいチームが始動するタイミングでチームづくりのポイントをご紹介した。

まずはセミナー参加者と共通認識を持つために、「チーム」と「チームワーク」、そして「チームビルディング」とは具体的に何を指すのか、説明した。 

チームとはなにか?チームとグループの違い(福富信也さん)

「チームとは『目的・目標達成のために、多くのものを共有し、一定期間努力を続ける固定集団』。例えば時間、道具、場所を共有するのは、どのチームも行っているでしょう。ただ、これらのものしか共有していない場合、大学や地域のサークル活動レベルのチームなのかもしれません。

チームとして志を持って、高い目標を掲げていくと、さらに多くのものを共有することができます。例えば規範意識や目標達成のプロセス、自分自身の感情やそれぞれの役割。さらには過去の経験、自分の歴史といったものが共有できるでしょう」

また、福富氏が多くのチームを見てきた中で、チームとして目標を共有しているだけで、チームメンバーが「チームになった」と勘違いを起こしてしまうことがよくあったという。しかし、目標達成への「プロセス」についても共有できていないと、いいチームにはなれない。

「例えば北海道に行きたいという目的地は決まっていても、プロセスが決まっていないと『飛行機で行くはずでは?』『車で行こうと思った』など、チームメート同士で認識の相違が生まれ、チームとして一体感をもって活動できない。プロセスをしっかり共有しているかどうかも非常に重要だと思っています」

では、「チームワークがいい」とは、どんな状態なのだろうか。

「チームワークとは、個々がチームの要求レベルに達しようと努力をした上で、メンバー間の精神的・身体的・技術的な協力がなされること。それらがスムーズに行われている状況・状態を『チームワークがいい』と私は定義付けています」

チームビルディングは、目標達成のために必要な「組織力・創造性・生産性を高める」活動

今回のテーマでもある「チームビルディング」を定義すると、「目標達成のために必要な組織力、創造性、生産性を高める一連の介入」を指すと言う。

「レクリエーションの手法を用いることもありますが、チームビルディング=レクリエーション、ではありません。NTTドコモレッドハリケーンズでも、今シーズンはコロナ感染症の影響があり、私も思うようにチームに関わることができなかったんです。そこで私が連載している記事を選手に読み続けてもらったり、チーム状況に合わせてメッセージ動画を送ったりして、毎週、毎試合、意識をそろえていく手法をとりました。このようにチームビルディングにはさまざまな手法が考えられます。組織力・創造性・生産性を高めるすべてのアプローチを『チームビルディング』と呼んでもいいのではないかと思っています」

さらに重要なポイントは、チームを構成しているのは個人だという点。だからこそ、個人の意識が変わることでしかチームは変わらない、ということ。チームビルディングとして全体に働きかけるだけでは、その目的は達成できないと言う。

いいチームは、「1つの生命体」のように機能する

チーム、チームワーク、チームビルディングとは何か、について参加者と認識をそろえた後は、チームワークがいい状態について解説を続ける。

チームは1つの生命体(福富信也さん)

 

「チームの中心人物のことを、チームの『心臓』『頭脳』と表現することは多いですよね。しかし、心臓も脳もさまざまな器官や部位の協力を得て、初めて機能するものです。だから重要なポジションの人であっても、決して偉いとか上なわけではない。役割が違う者同士がお互いに尊重し合って、調和して機能していることが重要なんです。

いいチームというのは、まるで『1つの生命体』のように機能するものだと思っていて、メンバーの間に神経が通い、それぞれの特徴の違いを生かして調和し、組織として自由自在にしなやかに動くことができる。私はチームビルディングを行う際に、まるで1つの人格が宿っているような状態を目指したいと思っています」

福富氏は、自身のことをチームビルディングにおける「かかりつけ医のような存在」でいたいと語る。

「チームの状況を常にヒアリングして診断する。そしてこういう問題が起こるかもしれないと予想されたら、早めに問題の芽を摘むために、『こんなプログラムはどうでしょう?』『こんな考え方を取り入れてみてください』といった形で処方箋を提案して、チームを理想的な方向に整えていっています」

チーム内モチベーションのそろえ方

チームの診断ポイントは「雑談の量」「ムードメーカーの存在」「リーダーシップのタイプ」

福富流「チームビルディング」ノウハウの紹介の後は、参加者からの質問を福富氏に投げかける質疑応答の時間へ。一つ目の質問は「チームに関わった時、最初はどういったところを見るのか?」

これに対して福富氏は「まず、外部の人間である私をどう迎えてくれるかが、最初の診断ポイントのひとつですね。チームのメンバーはオープンマインドで、外部の人を迎えることに慣れているのか、それとも『この人は一体誰?』と身構えられているのかを見極めます」と答えた。

さらにチーム内の雑談の量も診断ポイントになるそうだ。雑談が多い場合は、チームメンバー同士で安心感があると捉えている。一方で雑談が少ないチームは、「こんなことを言ったらどう思われるだろう?」とチームメンバーたちがその場の空気を読まないといけない雰囲気。お互いが監視し合い、無駄な緊張感がある場合も多いそうだ。

「例えばサッカーチームだと、練習中に選手が大きなサッカーゴールを運ぶことがあるのですが、人数が足りなくて運べないとします。そういう時に若手選手がベテランに『手伝ってくれ』と助けを求めることができるチームかどうか。それとも『誰か気づいてくれないか』と思いながら黙っているチームか。黙っているチームだと『仲間に助けを求められないチームなのか?』と思いますね。そういったプレー面以外の違和感を見つけた場合は、プレー中に現れる違和感と共通するものがあるのではないかと仮説を立て、プレーの様子を観察するようにしています」

二つ目の質問は、「他の種目、他カテゴリーでも使えるような診断ポイントがあれば教えてほしい」という内容だった。

福富氏は診断のポイントとして、前述の「練習外の時間での雑談の量」、さらに「さまざまな人と関われているか」という点を挙げた。そして最後のポイントは「リーダーの存在」。リーダーの影響の与え方が民主的か、専制的か、一部ではなく全体に注意が向いているのかを見るそうだ。そして、チームにムードメーカーがいるかどうかも重要だと述べる。

「例えば試合の前半がうまくいかず、ハーフタイムに選手たちがロッカールームに戻ってきた時、考え込んでいる人が多くいると、その場が深刻な雰囲気になってしまいます。そういう時にムードメーカーのような存在がいて、その人が発言をすると、チーム全体が明るい雰囲気になり、ポジティブな方に物事が進んでいくんです。モチベーションや雰囲気を意識して振る舞える人物がどれだけいるかは、とても重要だと思っていますね」

数値の目標とは異なる「意義目標」の重要性

次の質問は「レッドハリケーンズでは、どういった順序でチーム全体のマインドを変えていったか」というもの。

ONE TAP SPORTSラボ 福富信也さん

創部以来、レッドハリケーンズはなかなか勝てず苦しい時期が続いていたという。そんな時期にジョインした福富氏には、「当たり前のことを当たり前にやる基準が低かった」ように見えたそうだ。

「高強度の練習するためには、練習中の給水や集合の時、『走って』集まる。しかし、そんな当たり前のことができていなかった。就任直後のヨハン・アッカーマンヘッドコーチも『最も残念に思ったことは、走って集合できている選手が何人かいるのに、できていない選手に声を掛けることができていなかったことだ』と言っていました」

残念なチームにありがちなのは、意識が低い選手たちや、愚痴を言う選手に対して、意識の高い選手たちが遠慮してしまう状況。基準が下がっていく要因です。そういった状況に対して、私は選手たちに、当たり前のことを当たり前にやれる集団になろうと呼びかけました。そして、私たちは単にラグビーを見せることが仕事ではない、という意義目標を強く訴えました」

福富氏が言う「意義目標」とは、勝つという成果や順位といった数値の目標ではない。「応援してくださる方々に素敵な体験をお届けしたい」「僕たちの良い行動の輪をもっと広げたい」といった想いのことで、ある意味、終わりのないゴールを目指すことだと語る。

「観客は、単にラグビーだけを見に来ているわけではなく、素敵な体験を求めて、時間とお金をかけて来てくれています。試合の勝ち負けについては、誰にもコントロールできません。ですが 『時間とお金をかけて来てくださった方々に、素敵な体験を持ち帰ってもらえるように最後まで全力を尽くして闘うことは約束しよう』と日常から言い続け、チームメンバーの意識を変えていきました。また、試合後は勝敗に関わらず『今日は素敵な体験を届けられたか』と問い続けました。それをシーズンを通して継続したことが、大躍進の要因なのかなと思っています」

オフ・ザ・ピッチで出る選手たちの本音に耳を傾ける

また、今回のセミナーには、通訳、トレーナー、チームスタッフといったアスリートを支える専門職の方々も多く参加していた。選手以外の人たちが担う役割の重要性について、福富氏は語る。

「私の一番の情報収集源は、通訳やトレーナー、フィジカルコーチ、メディカルスタッフといった方々です。彼らは選手たちのことを、最もよく知る存在。選手たちの本音が垣間見えるオフ・ザ・ピッチでは、スタッフの関わりが欠かせないと思っています。だから、選手たちと同じような話をスタッフの皆さんにも伝えていました」

チームが変化していく過程には、ヘッドコーチのマインドセット、本気度があったからだ、とも付け加える福富氏。

「レッドハリケーンズでは、みんなが共通理解を持ってシーズンに臨むためにヘッドコーチ自らが、『思ったことは遠慮なく言ってほしい』『耳障りなことこそ伝えてほしい』と言ってくれました。すると選手もスタッフも発言しやすくなりますよね。いろんな情報が入ってくるようになるとヘッドコーチが孤立せず、さらに高みを目指せますからね」

また「チーム内でモチベーション格差があります。どのようにして埋めるべきでしょうか?」という質問にも答えてもらった。

チームに所属できるのは、自分が必要とされているから。特にプロのチームであれば必要がなければ契約されない。だから福富氏は「その人がいかに大切な存在なのか」ということを、きちんと伝えてあげる必要性を説く。またそれを、チーム内でお互いに表現し合うことができる関係性だとなお良いとも言う。そして、自分のモチベーションに疑問がある場合は、嫌ならやめることができるのに、「自分はなぜ競技を続けているのか」を自問してみるといいと付け加えた。

「例えば、チームがもっと強くなるためには、紅白戦で対戦する控えメンバーの存在が欠かせません。チームが良い試合をするためには、控えメンバーが最高の対戦相手にならないといけない。最高の対戦相手になることで自分もレベルアップできるし、レギュラーの誰かがケガをしたら、いつでも出られるチャンスがあるのです。チームが成長する一番重要な核を握っているのは、控えのメンバーとも言えるでしょう。モチベーションの格差を埋めるポイントは、そこにあるんじゃないでしょうか」

ONE TAP SPORTS入力時に自問自答する。その習慣化が自己理解を深める

質疑応答の中では、チームビルディングにおいてONE TAP SPORTSをどのように使っているかという質問もあった。

ONE TAP SPORTSラボ、チームビルディング福富信也さん

いいチームであるためには、個々人が自らの役割を果たすことが重要になる。そして役割を果たすためには、自分の強み、弱み、特徴を知っていること、つまり「自己理解」が欠かせないと言う。

「たとえばサッカー選手に『あなたの特徴は何ですか?』と質問し、『スピードです』という答えが返ってくる。『どんなスピード?』と重ねて聞くと、それ以上答えられないケースはよくあります。単にスピードが特徴だといっても、『初速はあまり速くないけれど、20m以降の加速が速い』のか『一瞬でトップスピードになれる』のか。自分の特徴をより詳しく把握できていると、自分の活躍の場を周囲に説明できるのです。自己理解が曖昧だと、大勢の中で埋もれてしまうんです」

自分自身を深く理解するためには自問自答が有効で、そこから導き出された自分の強みがチーム内での役割になっていく。自問自答や自己理解とつながっているのがONE TAP SPORTSだという。

「ONE TAP SPORTSを入力する時は、『ここが痛いんだけど昨日と比べてどうかな?』『ちょっと疲れているけど、昨日の睡眠はどうだったか?』と自分のことを考えますよね。そうやって自問自答することって、自己理解するのにとても良いと思っているんです。毎日ONE TAP SPORTSに入力する作業自体は地味なことに思えるかもしれませんが、自己理解がチームワーク、チームビルディングの礎をつくると言っても過言ではありませんよ」

最後に福富氏はセミナーに参加した方々にメッセージを送った。

「多くのご質問をいただいていた『モチベーション』について、最後にもう一度。

自分が『コントロールできること』と『コントロールできないこと』を切り分けることで、かなりモチベーションは安定します。たとえば、試合に勝てるかどうかは、コントロールしきれない領域ですよね。でも、最後まで全力を尽くすことは自分次第でコントロールできることです。スタメンの決定も監督の専権事項であり、選手としてはコントロールが難しい部分です。だからスタメンになれるなれないに一喜一憂するのではなく、自分でコントロール可能な部分に全力を尽くすことが、結果的にスタメンになれる可能性を上げると、選手たちに伝えています。コントロール可能な領域を見極め、そこに注力すること。モチベーションに課題があるなら、まずは試してみてください」

 

※セミナー全編(82分)はこちらから動画でご覧いただけます。

 

文/キャベトンコ