イベントレポート|駿河台大学駅伝部「箱根を目指した1年の軌跡」チームづくりとデータ活用

あらゆるスポーツで「チームビルディング」の重要性が注目されている。箱根駅伝出場を目指す駿河台大学駅伝部の徳本一善監督と学生マネージャーの愼颯斗さんを招き、昨年12月17日、オンラインでセミナーを開催。チーム力を上げる「選手の主体的なアクションの導き方」や「パフォーマンス向上につなげるデータ活用」についてお話しいただいた。

講師

講師
徳本 一善
駿河台大学駅伝部 監督

1979年生まれ、広島県出身。法政大学社会学部卒。在学中は、選手として4年連続で箱根駅伝に出場した。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科修士課程修了。日清食品グループ陸上競技部プロ契約選手(2002年~2012年)。2011年から駿河台大学陸上競技部駅伝部のコーチを務め、翌年監督に就任。

講師
愼 颯斗
駿河台大学駅伝部主務兼マネージャー

2000年生まれ、広島県の世良高等学校2年生時に、全国高校駅伝に出場。2019年までは駿河台大学駅伝部の選手として活躍していたが、2020年に主務兼マネージャーに就任。選手時代の経験や知識を生かし、選手と監督をつなぐ存在としてチームを支えている。

《第一部》ゼロから始めた、駿河台大学駅伝部のチームづくり

「箱根駅伝100年の歴史に足跡を残す」という目標

第一部では駿河台大学駅伝部の徳本一善監督が登壇。徳本監督は大学時代、自身も4年連続で箱根駅伝に出場し、注目を集めた選手として記憶に残る方もいるだろう。現職に就任して10年目となった昨年10月に挑んだ箱根駅伝の予選会からトークは始まった。

新型コロナウイルス感染症の影響で情報が錯綜(さくそう)する中、今年の予選はこれまでにないハイレベルな戦いに。惜しくも駿河台大学駅伝部の結果は15位で本戦への出場は叶わなかったものの、選手12人中10人が自己ベストを出すという結果を残した。「箱根駅伝100年の歴史に足跡を残す」という目標を見据えたチームづくりについて、さまざまな角度から語ってもらった。

「強豪校の真似をしたって効果はない」

徳本一善さん(駿河台大学駅伝部監督)、宮田誠(株式会社ユーフォリア代表取締役)
徳本一善さん(駿河台大学駅伝部監督)、宮田誠(株式会社ユーフォリア代表取締役)

「いいチームとは何か」という問いに、明確な答えは無いと語る徳本監督。駿河台大学駅伝部は徳本監督がゼロから創り上げたチームで、箱根駅伝に出場するほかの強豪校と同じことをすれば強いチームができるなどという考えはなかったという。

駿河台大学のスポーツ科学部で行われているスポーツ科学についてのさまざまな研究成果や、企業との共同研究など、徳本監督はこれまで外部とのタイアップを積極的に推進してきた。1年前から利用しているONE TAP SPORTSもそのひとつだ。外部の視点をチーム強化に活用し、独自のチーム作りを編み出してきたのだ。

強制ではなく提案の対話が、選手を変えていく

2012年に徳本監督が就任した当初、選手はなんと3人だったという。
「予選出場時に10人いた選手のうち、『練習が厳しくなるとバイトができない』などの理由で7人が辞めてしまいました。コーチの『新入生が入ってくるので大丈夫です!』という言葉を信じての波乱のスタートでした」

徳本監督は、最初はいわゆるルール違反に「ペナルティ」を与える指導を行っていた。しかし選手は罰を与えられた直後はルールを守っても、少し経つと元通りになって長続きしない。徳本監督が現役選手だった頃には考えられない、惨憺(さんたん)たる状態。それならと、さらにルールを厳しくしても状況は変わらなかった。

「大学の4年間で駅伝を楽しんでほしい」「箱根駅伝に出場する」。この2つの目標を実現するために何が必要なのか。悩む中で行きついたのは心理学だった。行動を変えるには、心を動かす必要があると考えた徳本監督は、ルールや罰則で縛るのではなく、まず選手を受け入れることに大きく方針転換した。

そこで気づいたのが、選手たちの理解がこちらの考えに追いついていないこと。ルールを守らない、嘘をつくのは、厳しさの理由を理解していないから。そこで徳本監督は選手一人ひとりと徹底的に対話し、「なぜそうするのか」納得できる思考のロジックを選手と一緒に組み立てることにした。対話で意識したのは、「提案する」こと。選手自らが考え、行動を選択できる動機をじっくりと育てていった。

遠い目標をリアルなものとして感じさせるのが監督の役目

「選手たちの『箱根駅伝に出場する』という目標は、まだまだ漠然とした遠いものだった」という徳本監督。「選手がまだ見えていないものを見せるのが監督の役目」と語り、選手一人ひとりがその目標を自分のものとできるようにするために、本番をリアルにイメージできる練習を重ねた。それまで遠く現実的ではなかった目標に至るルートが見えてくると、選手は練習に力が入るようになったという。

目標やルールの意味を自覚した選手たちの取り組みは、少しずつ変わっていった。「強豪校と同じことをしていても勝てない」ことを痛感したチームには、自己成長のためにできることは何かを議論し、チャレンジする土壌が生まれた。

徳本体制で10年目を迎え、昨年10月の箱根駅伝予選会を経て「とてもいいチームになった」という機運が最高潮に。15位という結果を前に、これまでに積み重ねてきたことを生かし、さらに上に行きたいというモチベーションが高まっているようだ。

《第二部》長距離選手を怪我から守る、コンディショニングデータ活用法

第二部は駿河台大学駅伝部の主務兼マネージャーの愼颯斗氏にご登壇いただき、ONE TAP SPORTSの新機能である「ランニングログ機能」の活用、学生が主体となってどのようにデータを活用しているのかという実践例を語ってもらった。

昨年まで選手として活躍していた3年生の愼さんは、現在、主務兼マネージャーとして選手と監督をつなぐ存在として駅伝部をサポート。チーム強化のためにコンディション管理に積極的にデータを活用する。ONE TAP SPORTSをどのようにチーム管理に生かしているのか。その活用法について紹介した。

強くなるために「怪我をしない」、「ポイント練習」を強化

愼颯斗さん(駿河台大学駅伝部主務兼マネージャー)
愼颯斗さん(駿河台大学駅伝部主務兼マネージャー)

駿河台大学駅伝部の練習方針は、強くなるためには「怪我をしないこと」「ポイント練習(週2~3回の高強度練習)の強化」だ。本番と同じあるいは本番以上の負荷をかけることで練習にメリハリを持たせる「ポイント練習」を行っており、設定したポイントの達成率をモニタリングする重要性を感じていたという。

「ポイント練習には1,000mインターバル×8本、12,000mといったものがありますが、駿河台大学駅伝部では消化率から、選手のコンディションや設定ポイントが適正かどうかを判断しています。例えば消化率が低い選手は怪我をして離脱、消化率が高い選手は大会でも良い成績を残す傾向が見えています。こうした現状分析だけではなく、大会の成績をもたらした背景を過去のデータから分析し、選手の強化に役立てるサイクルを回しています」

ポイント練習を軸とした情報を活用するためには、マネージャーやトレーナーといった視点からのフィードバックも重要。選手により近いマネージャーやトレーナーだからこそ気づく変化を監督に伝え、メニュー改善に生かすプロセスを構築。選手と監督だけでなく、選手とマネージャー、選手とトレーナーといった複数のコミュニケーションは、選手のコンディションをより細かく把握することに役立っている。

データを活用し、さまざまな視点から選手を守る

ONE TAP SPORTSに入力されるデータで愼さんが大切にしているのは、練習日記に書かれた選手のコメントのチェック。そこで「調子が悪い」「身体の〇〇が気になる」といったコメントがあれば、その選手を気にかけると同時に監督にフィードバックをしているという。

「『怪我をしないこと』を練習方針に掲げているため、練習負荷も確認しています。ONE TAP SPORTSを活用して選手の月ごとの走行距離を把握し、前月より増えないように調整。ランニングログ機能を使えば、選手が入力しなくてもトレーニングの走行距離が自動的に記録されるので、入力忘れもなく、客観的なデータをもとに走りすぎによる身体への負担を軽減させることができます」

身体を壊さないと同時に、壊れない身体をつくる。そのために何をすればよいのかという根拠をチーム全体で共有するために、ONE TAP SPORTSを活用している駿河台大学駅伝部。第一部、第二部のトークを通じて、長年の試行錯誤からたどりついたチーム強化術への自信が感じられた。

 

※駿河台大学駅伝部「箱根を目指した1年の軌跡」セミナー動画全編(100分)はこちらからご覧いただけます。

文/はたけあゆみ