東洋大学女子サッカー部|睡眠や食事、月経データをコンディショニングに生かし、怪我で離脱者を出さないチームを目指す

チーム競技にとって、メンバー全員が怪我なく、誰もが試合に出場できる状態が理想的だ。しかし現実はそううまくはいかず、調子が出ない選手や不調が続く選手、怪我で離脱する選手がいることも多い。そのために重要なのが日頃からの「コンディショニング」だ。女子選手の場合、「月経」はコンディションに大きな影響を与えると言われている。今回、2022年3月からONE TAP SPORTSを本格活用し月経管理も行っているという東洋大学体育会サッカー部女子部の石津監督と岡田コーチ、選手たちにコンディショニングにどう役立てているかを伺った。

インタビュイー

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石津 遼太郎
東洋大学体育会サッカー部女子部 監督

1989年生まれ、埼玉県出身。東洋大学を卒業後、幼児から小学6年生までの子どもたちが所属する、はくつるFCでコーチ、大宮アルディージャで普及スタッフ、2015年からちふれASエルフェン埼玉マリU−15監督、2016年から東洋大学体育会サッカー部女子部コーチを務め、2020年に同チーム監督に就任。

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岡田 樹
東洋大学体育会サッカー部女子部 コーチ

1992年生まれ、新潟県出身。JFA公認B級指導者ライセンス保持。東洋大学を卒業後、2012年から富士見プリメイロFCコーチを経て、2015年に東洋大学体育会サッカー部女子部フィジカルコーチとなり、週1回のペースで指導。2020年に同チームコーチに就任以来、毎日、コンディショニングの指導も行う。

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今井 佑香
東洋大学体育会サッカー部女子部 キャプテン

2000年生まれ、東京都出身。チームのキャプテン。ポジションはGK。JFA・WEリーグ/なでしこリーグ特別指定選手。

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境 ひより
東洋大学体育会サッカー部女子部 選手、メディカル担当

2001年生まれ、青森県出身。ポジションはMF。選手としてプレーしながら、チームのメディカル担当としてチーム全体のONE TAP SPORTSの入力を促進している。

長いシーズンを怪我なく全員で戦える体制を作るための「コンディショニング」

東洋大学体育会サッカー部女子部の構成について教えてください。

  • 選手人数/38名(1年生10名、2年生10名、3年生9名、4年生9名)
  • チームスタッフ構成/総監督、監督、コーチ1名、GKコーチ1名、トレーナー4名、選手スタッフ1名

ONE TAP SPORTS導入の経緯は?

東洋大学体育会サッカー部女子部石津監督
石津 遼太郎 監督

石津監督:チーム全員で常に戦っていけるような体制を目指しています。できる限り怪我をなくし、選手たちが良い状態で試合にのぞめる状態に持っていけるのが目標。そのためにも岡田コーチの力が欠かせません。

岡田コーチ:私が2015年にコーチに就任したばかりのときは週1回のペースでフィジカルトレーニングの指導をしていました。当時、選手はA4用紙1枚に1週間分の睡眠時間や身体の調子などのデータを書き込んでいましたが、さまざまな問題がありました。例えば、紙に書き込んだデータをExcelのような表計算ソフトに落とし込まないと分析ができません。しかも、紙ベースとなると、提出直前、その場で適当に1週間分の数値を書き込む選手も出てきます。そうなると、当然のことながらデータとして信頼性も低いですし、チーム全体としての分析の精度が落ちてしまうのが悩みの種でした。

2020年頃からほかのアプリやGoogleフォームなどを活用するようになりましたが、結局、手間をかけて選手が入力したとしても、それに対するフィードバックができず、データは入力されているけれど蓄積されていくだけで有効活用できておらず、もったいない状態でした。コンディショニングに活用できる有効なデータがほしい、そのためには選手たちが簡単に入力できる仕組みがほしかったのです。ちょうど、そんなときにご縁があって、ONE TAP SPORTSに出合いました。

ONE TAP SPORTSで指導に必要な情報を一元管理し、指導に生かす

チームの課題に対して、どのように役立てていますか?

石津監督:私が2020年に就任するまで前任の監督のときからコンディショニングについて、指導者側と選手は丁寧にコミュニケーションをしていました。ですから、怪我人は多いチームではありませんでした。ただコンディショニングに関する専門知識と経験を持つ岡田コーチと会話していくうち「もっと良くしていけるんじゃないか」となりました。

東洋大学体育会サッカー部女子部岡田コーチ
岡田 樹 コーチ

岡田コーチ:私が専任コーチに就任した際、いちばんの課題だったのは十分な休息がとれていないことでした。スケジュール変更前は、夜の練習を20時に終えた翌日に朝練をする日もあり、ゴールキーパーだと朝5時にはピッチ入りという状況でしたので、リカバリーが満足にできず疲労の蓄積が気になっていました。練習スケジュールを変更してからは、試合の翌日にリカバリーの日、その翌日は完全オフ日を設け、リカバリーに充てる時間を増やすようにしました。

石津監督:ONE TAP SPORTSによってコンディションとトレーニング強度を可視化することで練習メニューが組みやすくなりました。また、岡田コーチが週1から常駐に変わってから、毎日のトレーニングの強度について選手の様子を見ながらコントロールしてもらえるようになったのも大きな進歩です。

ほかのデバイスを使ってデータ取得もされているのでしょうか。

石津監督:GPSデータも活用していますよ。ONE TAP SPORTSには、GPSデバイス『Knows(ノウズ)』と連携できるというメリットがありました。走行距離などGPSで取得した客観的なデータとONE TAP SPORTSで選手による主観的なデータ、両方から分析できるようになります。それに、メディカルやトレーニング、さまざまなデータを一元管理できるので、トレーニングメニューを考えるときに、どの選手がどのトレーニングに参加可能で、そうでないのかも一目瞭然になります。実際に、すごく便利になりました。

周期通りに来る月経管理は、健康維持と疲労骨折を避けるためにモニタリング

ONE TAP SPORTSにどんな項目を入力して見ていますか?

岡田コーチ:疲労感、睡眠時間、睡眠の質、安静時心拍数、体重、体温です。それから身体のハリや痛みのある部位、月経。詳しいことはフリーコメントで入れてもらうようにしています。

選手として使ってみていかがですか。

東洋大学女子サッカー部今井 佑香 さん
キャプテン 今井 佑香 選手

今井選手:客観的なデータとして残るので、自分で振り返りができる。そういう点ですごく役立つと感じています。私の場合、ONE TAP SPORTSで記録を取り始めてから、月経と体重の変化に関係があるというのがはっきりと見えてきました。月経の時期が見えてくると、たとえいつも通りのパフォーマンスができなくても、「しょうがない」といい意味で割り切れるようにもなりました。

境選手:私はONE TAP SPORTSの入力を促進するため、メディカル担当を任されています。入力していない選手がいるときには、全員に向けてLINEで入力をしてもらうように促します。月経はそれぞれ人によって差があります。頭痛、腹痛、だるさなど、症状は十人十色。コーチに自分からわざわざ口頭で月経の状態を報告するのはためらってしまいますが、「書く」ことで身体の状態を伝えられるので助かります。今は月経のありなしなどを記入できるのですが、細かい症状や違和感や負担なども書けるとより良いと思います。

今井選手:月経に限らず、例えば、睡眠が十分に取れていないときには次の日、身体がだるいということも。身体がだるいと当然、パフォーマンスに影響するので、自分で自身の状態を確認できるのは良いですね。

東洋大学女子サッカー部選手兼メディカル担当 境 ひより さん

メディカル担当も兼任する 境 ひより 選手

導入後、選手とのコミュニケーションに変化はありましたか?

岡田コーチ:例えば、ゴールキーパーの今井選手がフリーコメント欄に「手がしびれる」と書いていたとします。客観的に見て症状が重いと判断したときには、直接、「具合はどう?」と確認するようにしています。

月経のデータはどのように参考にしていますか?

岡田コーチ:月経が直接、パフォーマンスに影響しているかどうかは見ていません。身体の調子についてはアラート機能を設定しています。それが基準値を超えて警告を出したときには注意して見るようにはしています。ほかにもONE TAP SPORTSで状態がスコア化されるCondition Indexという指標があるので、今日は何点なのかを確認して、総合的に体調を見るようにしています。

個人個人の身体のコンディション状態をもとにトレーニングメニューを変えるということはまだできていません。今後の課題としては、サッカーはチームスポーツなので、個々のコンディションを見てメニュー自体を変えることはなかなか難しいですが、選手それぞれに「今日は本数少なめ。休憩は多めでいい」というようなトレーニングの強度を変えられるような指導をすることを目指しています。

男性指導者として、月経について女子選手に質問しづらいでしょうか。

東洋大学女子サッカー部

岡田コーチ:男性の指導者が恥ずかしがったり、ためらったりすると、選手は余計、話しにくくなります。ですからコンディショニングのプロとして睡眠や食事と同じように聞くようにしています。

月経は基本的に定期的に来るのが理想です。周期には個人差があるので、細かいところまでは気にしません。でも70日で黄色信号、月経が来ていない選手には声をかけます。そのとき、食事量は足りているのか、極端に体脂肪が落ちていないかなどもチェック。普段は食事であまり脂肪分の多いものを摂取しないように指導していますが、あえて脂肪分の多いものを摂取してもらうなどして、90日までには月経が来るように指導しています。それでも90日以上来ない場合には医療機関に行くという基準を設けています。月経が来ないと疲労骨折につながるので、90日以上来ないという状況はなるべく避けたいところです。

今後、ONE TAP SPORTSをどう活用していきたいですか。

石津監督:まずは今シーズン使ってみて、データを収集することでいろいろと見えてくるものがあるかと。ただ現時点でも、どの選手がどのトレーニングができるというのが一目瞭然なので便利になりました。

監督が頑張りすぎても空回りするだけ。やるか、やらないか決めるのは選手自身です。監督としてチームの方向性や環境を整えることはしますが、選手には僕の想像を超えてどんどん成長してもらいたいです。そのためにONE TAP SPORTSを含めたツールをもっと有効活用できるようになりたいです。

岡田コーチ:自分自身でコンディションを調整できる選手になってもらうのが目標です。卒業後、プロ選手あるいは社会人になっても、やはり身体が資本であることは変わりません。例えば、体調が優れないときにどんなことをしたらパフォーマンスが上がるのか、どこをどうしたら良くなるのか、4年間で身体との向き合い方を学んでもらいたいです。まだ行き届いていない部分ではあるので、そこはONE TAP SPORTSをうまく活用していきたいです。

石津監督:前任の監督のときから「スポーツ等で得た知識や経験を通し、円滑に社会と結びつく人財を育成すること」を掲げ、指導を続けてきました。結局、人からただ言われたことだけをやっているようなマインドだと、どの業界に進んだとしてもうまくいきません。特にサッカーのプロの世界は、毎年、自分の成果によって、契約更新してもらえるかが左右される厳しい世界です。そんな厳しい世界で生き抜くための基礎力を養えるような環境を整えていくために、これからも指導者としてできることを探していきます。

 

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取材・文/松葉紀子(スパイラルワークス)  撮影/下山展弘