追手門学院大学トレーニングセンター|全部活の傷害・コンディションデータを一元管理できるハブとして活用し、研究にも役立てたい

大阪府茨木市にある追手門学院大学では、学生の健康維持と職員の福利厚生を目的としたトレーニングセンター「追fit」を2014年に竣工。強化指定クラブ選手を中心としたトレーニング施設としても活用している。同学では、2020年に新型コロナウイルス感染症対策ツールとしてONE TAP SPORTSを数千人規模で導入し、体調管理の意識向上に役立てた。さらに部活動における傷害管理ツールとしても活用する。今後、強化指定クラブのコンディション管理ツールとしても活用範囲を広げていきたいという。トレーニングセンターのコーディネーターを務める佐藤哲史さんと、学生支援課の小河未和さんに伺った。

インタビュイー

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佐藤 哲史
株式会社Sports Multiply 代表取締役、追手門学院大学トレーニングセンター コーディネーター

1976年生まれ、東京都出身。日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー/鍼灸学士/JFA公認スポーツ救命ライセンス所有。アスレティックトレーナーとして医療機関、スポーツチーム、教育機関などで幅広く活動中。追手門学院大学トレーニングセンターには2018年よりコーディネーターとして携わる。

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小河 未和
追手門学院大学 教務・学生支援部 学生支援課 主任

1987年生まれ、岡山県出身。関西大学商学部卒業。2010年、学校法人追手門学院に入職。現在、学生支援課では課外活動支援を中心とし、クラブ・サークル活動の支援を行う中で、トレーニングセンターの運営にも携わり、学生教職員の健康維持・推進のための施策の考案、支援活動を行っている。

感染症対策として全学で導入、自己管理意識の定着につながった

追手門学院大学のトレーニングセンター「追fit」とは、どのような施設ですか?

小河未和氏 追手門学院大学 教務・学生支援部 学生支援課 主任
追Fit のトレーニングルームで取材に答えてくれた学生支援課の小河さん

小河さん:全学生の健康維持と職員の福利厚生のために2014年に設置されました。それまで部室棟に小規模なものがありましたが、3階建ての独立した棟を新たに建設し、ランニングマシーンやエアロバイクをはじめ、さまざまなトレーニング機器19台、フリーのトレーニングルームや更衣室、シャワー室、ミーティングルーム、ケア室などを備えた施設に刷新しました。佐藤さん、阪本さんをはじめ6名のアスレティックトレーナー(常勤2名、非常勤4名)に施設の管理をお願いしています。

追手門学院大学のトレーニングセンター「追fit」
追手門学院大学のトレーニングセンター「追fit」

佐藤さん:主にこの施設を利用している強化指定クラブ(女子サッカー、女子ラグビー、アメリカンフットボール、硬式野球、サッカー、ラグビー、洋弓、少林寺拳法)の部員たちが怪我をした際のケアやトレーニングのアドバイスを行います。休日に試合がある場合もトレーナーが帯同しています。

ONE TAP SPORTSは、部活やチーム単位で導入されるケースが多いのですが、追手門学院大学では、感染症対策として課外活動(体育系・文化系部活、サークル)の全学生に導入されました。その経緯を教えてください

小河さん:2020年4月に、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言を受けて授業がオンラインに切り替わり、課外活動も一切停止になりました。当時はまだ私たちも感染症に関する知識が乏しく、学生も不安を抱えていた状況で。学生支援課として、まずは学生自身に健康管理の意識づけをしたいと考え、どんな方法があるか検討していました。佐藤さんからのアドバイスを参考に学生支援課内での検討、各強化指定クラブの監督方とも話し合い、ONE TAP SPORTSを導入することになりました。

同年7月末から授業や課外活動を段階的に再開することになりました。課外活動としては、「2週間発熱がないこと」を条件として再開することとなり、ONE TAP SPORTSの体調記録(体温、咳の有無など)と、行動記録(人との会話・接触など)が非常に役立ちました。当初のルールとして、毎朝チェックしなければ活動が許可されないとしていたので、学生たちも自然と自己管理ができるようになったのではないでしょうか。また、ただ体温を入力するだけが目的にならないよう、なぜ体調管理が必要なのかというそもそもの意味を理解させた上で運用するよう意識しました。

佐藤哲史氏 株式会社Sports Multiply 代表取締役 追手門学院大学トレーニングセンター コーディネーター

佐藤さん:私はONE TAP SPORTSを他校で使用していた経験があり、追手門学院大学でも使ってみたいと以前から考えていたのですが、費用のこともあり先送りになっていました。最初は感染症対策のため体調記録・行動記録用に導入したわけですが、その後は強化クラブから段階的に傷害の管理ツール(インジュリー機能)も取り入れるようになりました。

毎日のデータ入力は、慣れないうちは面倒に感じるものですが、学生たちは感染症対策ですでに日々の入力がルーティーン化していたので、スムーズに受け入れてもらえ、良いタイミングだったと思います。実際に学生と接することの多い阪本トレーナーも実感したようです。

「追fit」に所属するチーフアスレティックトレーナーの阪本将輝さん
「追fit」に所属するチーフアスレティックトレーナーの阪本将輝さん

阪本さん:コロナでみんなが不安だった中、各自が体調を気にするようになり、自己管理するようになったのでとても効果を感じました。怪我も含め、コンディションを共有することが各クラブの監督さんたちにもプラスになっていると思います。

小河さん:数千人単位のアラートのチェックや、コメント欄への返信も学生支援課で行っていましたので最初は大変でしたが、2年あまりの経験でかなり手際よく管理できるようになってきました。活動条件も見直されましたが、大きな大会や宿泊を伴う試合に出る場合などは、引き続き2週間の継続記録を義務付けていますので、現在も活用してもらっています。

数字の説得力は大きく、データを基に傷害予防計画を立てやすくなった

インジュリー機能の方はどのように活用されていますか、効果は感じられますか

佐藤哲史氏と小河未和氏(追手門学院大学)

佐藤さん:選手たちがスポーツ活動で受傷したら、その状況や、病院でどんな治療を受けたかなどを報告してもらい、トレーニングセンターで一元管理しています。怪我のサポートやリハビリ、トレーニング提案をする際にも、データを基に会話することで説得力がありますし、クラブの監督にも理解していただきやすいです。選手への還元とともに、監督との信頼関係を築く上でもメリットがありました。

また予防の観点から長期的な傾向を追うことができ、例えばデータ的に8月は肉離れが多いから負荷を再考してみようか、というようなプランが立てやすくなります。男子・女子サッカー部に関しては少しずつ傷害予防のための介入を始めている段階です。

私は、このトレーニングセンターも教育機関のひとつだと捉えていて、学生を育てる場であり、先生方の研究や大学の安全管理という点でも情報が集まるハブになるべきだと思っています。現状はまだ2年分くらいのデータですが、今後も、次の世代に生かせるようなデータを蓄積していきます。

部活にとどまらず、大学全体でデータを蓄積し、活用していきたい

今後、ONE TAP SPORTSをどのように活用していきますか

佐藤哲史氏 株式会社Sports Multiply 代表取締役 追手門学院大学トレーニングセンター コーディネーター

佐藤さん:最近ようやく男子・女子ラグビー部で、筋肉の張りや主観的疲労度、睡眠時間などコンディションの入力フォームを追加しました。ONE TAP SPORTSの本来の使い方、コンディション管理ツールとしてもっと活用していきたいですね。ほかのクラブにも広げていきたいと思っています。

また、この夏に初めての試みとして、強化指定クラブに入っている1年生80人に対しての新入生のフィジカルチェックを行いました。1年生の時点でどれくらいの体力があるか。スプリント、シャトルラン、Yバランステスト、握力、Tドリルなど9項目で筋力・柔軟性・バランスをチェックしました。

これにより、例えば追手門学院大学のサッカー部に入部するにはこれくらいのフィジカル基準が必要ですという目標となるデータとして見えてきて、推薦入学の参考になったり、入部希望者の目安が作れたりするのではと考えています。高校生段階ではレベルのバラつきが大きく、いきなり大学レベルの部活を始めると、入学早々怪我をする学生もいるので、怪我の予防のために、これくらいの力をつけて来てねと、スクリーニングとして使いたいのです。

今回のデータは、大学のスポーツ心理学の先生(社会学部)との共同研究にも活用しています。スポーツセンターの活動やデータが、今後も大学の研究に役立つようになってほしいし、若いトレーナーの人にも興味を持ってもらいたいです。一般的に、トレーナーはチームに所属してアスリートと接することが主だと思いますが、このトレーニングセンターは大学全体と連携できる機関なので、さまざまな人と接することができ、貴重な経験が積めると思います。

ではトレーニングセンターの今後の活用目標と課題を教えてください

佐藤さん:最近の傾向として、Jリーグなどトップチームのトレーナーになるためは、ONE TAP SPORTSのようなコンディション管理やGPSなどテクノロジーを扱えるスキルに精通していることが条件になってきています。これからのスポーツ界で活躍する若手トレーナーのスキルアップという面でもONE TAP SPORTS の活用を充実させていきたいです。

それから、トレーニングセンターを大学職員のウェルビーイングのためにもっと活用していきたいですね。学生が使わない時間帯を利用してヨガやピラティスの時間を作ってみてはどうか?など、大学の健康経営にも貢献できるような仕組みが作れないかと考えているところです。

 

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取材・文/河津万有美  撮影/水野浩志