Session 4〈後編〉:「観察」と「対話」で自ら課題解決できる力を育む

オンラインミーティング「部活動・日本のジュニアスポーツを考える」4つ目のセッションでは、バスケットボール、バレーボール、ハンドボール、サッカーの各競技団体の「育成」キーパーソンに集まっていただき、「育成年代の未来を考える」というテーマでパネルディスカッションを実施。具体的な取り組みや今後の選手育成のビジョンについてお話を伺った。前編と後編にわたってお届けする。

インタビュイー

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山本 明
公益財団法人日本バスケットボール協会 技術委員会 副委員長兼ユース育成部会長

1969年生まれ、大阪府出身。大学卒業後、筑波大学男子バスケットボール部のコーチに就任。その後、愛知学泉大学男子バスケットボール部へ移り、アシスタントコーチを経て、監督に就任。日本学生連盟東西対抗オールスター西軍ヘッドコーチ、東海学生選抜ヘッドコーチなど選抜チームのコーチを歴任。2016年より公益財団法人日本バスケットボール協会(JBA)技術委員会に所属。現在JBA育成普及セクションにて主に育成年代の強化を担当し、発掘や育成の課題解決に取り組む。

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広瀬統一
早稲田大学スポーツ科学学術院 教授/なでしこジャパン フィジカルコーチ

1974年生まれ、兵庫県出身。大学卒業後、東京ヴェルディでインターンとして2年間従事した後、3年目から本契約。2006年に東京ヴェルディを退団後、早稲田大学教員として従事しながら、名古屋グランパスに入団。2008年からは名古屋グランパス、JFAアカデミー、なでしこジャパン(サッカー女子日本代表)、大学教員を並行して携わる。2009年に名古屋グランパスを退団し、京都サンガへ。スポーツ外傷・障害予防とコンディショニングをテーマに、若年層から成人まで幅広い年齢層を対象に研究を行う。2009年、早稲田大学スポーツ科学学術院専任講師に就任し、2015年より現職。

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大竹秀之
公益財団法人日本バレーボール協会ディベロップメント推進部部長

1967年生まれ、神奈川県出身。法政大学に入学後、大学在学中にバレーボール男子日本代表に選出される。卒業後はNECブルーロケッツに入部。ワールドカップに4回、世界選手権に3回出場し、日本を代表する選手となる。2001年に現役を引退。その後、2013年まで男子日本代表コーチとして指導にあたる。現在はディベロップメント推進部にて、発掘育成委員会と競技者拡大委員会を取りまとめ、小学生から高校生までのスポーツ選手の発掘・育成や競技者拡大に取り組む。

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藤本 元
元公益財団法人日本ハンドボール協会指導委員会 中央委員会委員長、筑波大学 体育系 准教授筑波大学男子ハンドボール部監督

1970年生まれ、大阪府出身。筑波大学卒。実業団のヘッドコーチを経て、ハンドボール日本代表女子チーム、アンダー21のコーチ、アンダー16の監督など歴任。2000年より、公益財団法人日本ハンドボール協会が取り組むナショナル・トレーニング・システム(NTS)にて育成年代の指導のシステムや指導内容の構築に携わる。

進行

進行
富田欣和
knots associates株式会社 代表取締役/CEO、関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科 教授、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任講師

1972年生まれ、千葉県出身。主に航空宇宙防衛領域で発展してきたシステムズエンジニアリングの方法論を地域創生や新規事業開発、教育システムなどを含む社会システムに適用する研究に従事。大学や政府系機関による研究開発プロジェクト、企業への新規事業やイノベーション創出支援、地域創生やビジネスのシステムデザインコンサルティングなどを行う。スポーツ分野でも競技団体の育成システムのアドバイザーを歴任。一般社団法人Sports X Initiative代表理事としてスポーツと社会をリデザインする活動も推進している。

〈前編〉から読む

ジュニア期の「育成」は、指導者が観察、対話することから始まる

富田:将来を見据えた育成を行うことは非常に重要で、各競技団体はそのためのいろいろな取り組みをされていることだと思います。具体的な内容について、まずは藤本さんからお話を伺ってもよろしいでしょうか。

藤本氏(以下 敬称略):それぞれの年代に合った指導が大事です。前半でもお伝えしましたが、小学生は原始的なゲームから始め、発展させていくこともひとつの方法だと思います。

筑波大学男子ハンドボール部監督 藤本 元 氏
筑波大学男子ハンドボール部監督 藤本 元 氏

藤本:指導者講習会でお話しする時は、少人数に絞ったスモールゲームでいろいろなシチュエーションを経験させることの重要性を特に強調してお伝えしています。絶妙な設定をし、その中でスポーツ選手自身で「こんなことがやれる」と考えるようにする指導が育成年代では重要だと思っています。それができれば、彼らの想像力やポテンシャルを伸ばせると思います。

広瀬氏(以下 敬称略):日本サッカー協会の指針によれば、選手たちが自由にボールを蹴って遊んだり、楽しんだりする内容からスタートしています。まずは、自ら経験し、楽しむことから始めよう、とされています。

指導者は選手それぞれの心理的な状態や発達・発育の状態を加味し、怪我や病気など将来に影響を与えるものを考慮しながら、プログラムを決めなければなりません。そのために欠かせないのが「観察」や「対話」です。

特に小さいうちは、多種多様な運動やスポーツの経験、友達との遊びや学校・地域での活動、家族との旅行も非常に大事で、サッカーの練習だけではなくそういった経験ができる機会をたくさん与えてあげてくださいと、指導者の方々にはお伝えしています。

選手をしっかりと観察することは当然として、選手だけではなくその周りの学校や地域、保護者などいろいろなアントラージュとも連携してほしいと思っています。

富田:スポーツ選手を観察、対話し、アントラージュとの関係もしっかり構築するのはかなり高度ですね。

早稲田大学スポーツ科学学術院 教授/なでしこジャパンフィジカルコーチ 広瀬 統一 氏
早稲田大学スポーツ科学学術院 教授/なでしこジャパンフィジカルコーチ 広瀬 統一 氏

 

広瀬:おっしゃる通り大変だと思います。だからこそ、指導者育成が大きな核となってくると思うのです。

一昨年、日本サッカー協会のB級指導者講習に受講生として参加する機会があったのですが、プログラム中に重視されていたのは、指導者は、すぐに答えを提供するのではなく、選手の考えをよく聞いたり、問いかけるということでした。

富田:次は、大竹さん、お願いします。

大竹氏(以下 敬称略):バレーボールの場合、まだ指導方法は統一されていません。自分の経験を基にして独自の指導方法をとっている指導者が多いです。パスの仕方ひとつとっても指導者間で言っていることが異なります。そのような状況では、カテゴリ―が変わる度に指導者の言っていることが違うため、選手の中には混乱を招いてしまうこともあります。統一した指導方法の確立は、バレーボール協会として大きな課題です。各カテゴリーごとに最低限の指導内容を定めるような一貫した指導方法が重要になってくるかなと私自身は思っています。

富田:山本さん、いかがでしょうか。

山本氏(以下 敬称略):前提として、指導者や保護者の方々はもちろん、大会の運営に携わる人たちにも「育成」の方針をしっかりと理解していただきたいと考えています。選手に関わる全ての大人に共通認識をもってほしいと考えています。

特に「育成」の考え方として知っていただきたいのは、短期の勝利より選手それぞれの将来像を描き、それを導くために指導がある、という考え方。12〜13歳までは、遊びも含めいろいろな経験が必要だと思います。

また、育成年代から「状況把握・解決力」を鍛えるべきだと思っています。昨年ワールドカップに出場し学んだことでもありますが、形を追いかけるばかりのバスケットボールは世界に通用しません。相手は我々に対応してくるので、その変化に対応するという「状況把握・解決力」を身につける必要があるのです。

そんな力を育むために、答えを提示する指導法ではなく、課題を提供して選手自ら考えて解決していくトレーニングが望ましい。ただ、今の日本の指導現場ではなかなかできていないように思います。指導者の言うことを聞いて、その通り実行したプレースタイルで全国大会で優勝し、育っていっている(と思っている)ケースが大変多いので。

公益財団法人日本バスケットボール協会 山本 明 氏
公益財団法人日本バスケットボール協会 山本 明 氏

山本:「勝つこと」と混同されがちですが、「育てること」が指導者の大切な役割だという認識をもっと高めたいとも考えています。ヨーロッパでは、学校単位の部活動ではなく、育成プログラム設計を行いやすい「クラブシステム」が採用されており、別のクラブに引き抜かれるような良いスポーツ選手を育てると、「あの指導者は育てるのがうまいぞ」と周りから評価されます。しかし、日本ではそのような評価のされ方はあまりありません。指導者の評価における考え方に共通認識をもてる仕組みが必要だなと感じています。

富田:各競技団体の多岐にわたる取り組みを伺い、指導者や保護者も含め、スポーツ選手をとりまく大人たちの考え方が大きな影響を及ぼすのだと改めて思いました。加えて、指導者や保護者の方たちに伝えたいことがあればお願いします。

広瀬:保護者のあり方は非常に重要だと思います。保護者がサッカーの専門的な戦術技術についての知識をもつ必要があるかというと、必ずしもそうではないでしょう。むしろ、スポーツを通じて選手が何を得るのかを重視してもらったほうがいいと思います。

スキルがうまくなったり、戦術が理解できるようになるのも大事です。ただ、それだけではなく、ささいなことでも競技を通じて成長した部分があれば、それを良しとするマインドをもってほしいのです。

山本:広瀬さんがおっしゃったことと同じですが、育成年代がスポーツを通じて学べることが多くあることを、保護者や指導者など大人全体に知ってほしいですね。

特にチーム競技なら、仲間との関係性を学べます。辛いこともあるとは思いますが、それを乗り越える経験は社会で非常に役立つのではと思います。優勝したから素晴らしい、1回戦で負けたからだめという勝敗結果ではなく、プロセスの中でも学べることは多いのです。

コロナ禍は、自分が「スポーツから何を得ていたのか」を見つめ直す良い機会

富田:最後に、「育成」に関する今後のビジョンや方向性についてご意見をいただきたいと思います。特に今は、新型コロナウイルスの猛威がスポーツ全般に大きな影響を与えていると思います。それらの状況も踏まえて、お話しいただければと思います。

山本:指導者にとっては、指導できない今は自分の指導法を振り返る時間になっていると思います。新たな気づきが生まれるタイミングになればいいですね。

また、スポーツ選手たちは、新型コロナウイルスの影響で大会が中止され、試合もなくなりましたが、だからといって人生が終わるわけではない、と実感・経験できたのではないでしょうか。周りの大人が「今までやってきたことは無駄ではない」と伝え、彼らに前向きになってもらうサポートができると良いですね。

広瀬:夏の大会がなくなったり、目標のひとつが失われてしまったことは本当に残念です。辛い時期だからこそ、選手たちには「なぜ、自分はサッカーをやっているのか」を振り返る機会にしてほしいですね。また、指導者も「なぜ、自分はサッカーを選手たちに教えているのか」を、もう一度深く問う機会なのかなと思います。自問自答は将来的なモチベーションへとつながります。答えにたどり着いた時、より大きな成長ができ力を生み出せるのだと思います。

また、答えを一つ一つ見出すことで、「問題解決力」が身に付くのではとも思っています。先生方からお話があったように、スポーツの重要な価値のひとつに、目の前の問題を自力で解決する能力が身に付けられることがあります。これから世界で必要とされる人間は、それぞれの立場で問題を解決し前に進んで行ける人たちです。改めて、スポーツの可能性を見直し着目していきたいと思っています。

公益財団法人日本バレーボール協会ディベロップメント推進部部長 大竹 秀之 氏
公益財団法人日本バレーボール協会ディベロップメント推進部部長 大竹 秀之 氏

 

大竹:バレーボールも全国大会や地区大会が中止や延期になりました。部活ができず、選手たちのモチベーションの低下も起こっています。

ただ、バレーボールの良さ・面白さについて改めて見つめ直すための良い機会になったのではないかと思っています。この機会をうまく利用しながら、選手たちが気軽にオンラインで対話することによって、選手と選手、選手と監督が互いの考えを理解し合ったり、大切な仲間を思ったり、など重要なことを共有し合える機会になっていると思います。

藤本:私は二つ考えていることがあります。一つは、仕組みをつくる側として全国大会のようなトーナメント形式の試合のあり方を考え直さなければならないなということです。定期的にリーグ戦があるほうが選手にとっては幸せなんじゃないかなと思うのです。

もちろんインターハイなど大きな大会を目指すことは重要ですが、それは目標であってもゴールでありません。日常的にどんなレベルの選手にもプレーする場があり、ワクワクする機会をつくるのが我々大人の役割なのではないかと思うのです。

もう一つは、皆さんおっしゃっていた通りスポーツ選手も指導者も自分がどうありたいのかが問われることになると思っています。私自身も、自分がどうありたいかを考えていきたいと思います。

「育成が良くなれば、日本のスポーツ全体がもっと良くなる」

富田:最後に、ジュニアスポーツに関わる方々にメッセージをお願いします。

山本:「育成」が良くなると、日本のスポーツはもっともっと良くなっていくのではないかと思っています。ラグビー日本代表が2019年のW杯で証明してくれましたが、何十年もかけての取り組み方によってはバスケットボールも世界で戦えると思っています。

30年くらい必要かもしれませんが、我々大人たちが次の世代のために学び続け、進化させてまた次の世代へバトンを渡すということをつなげていかなければなりません。日本の将来を支えているのは育成年代だと誇りを持ち、指導者も保護者の皆さんもぜひともに頑張りましょう。

富田:各競技団体の「育成」や強化のご担当として、重い責任を持っておられる皆さんが、それでも大事なのは人間的成長であるとお話しされていることは非常に大事なポイントだと思います。普段から数字や順位で評価されるご登壇者の方々が、人間性やスポーツ選手たちの将来が大事だと語っていることを、ぜひ、指導者や保護者の方によく考えていただきたいと感じました。

長時間にわたり、お話を伺うことができてうれしく思います。パネリストの皆さま、ご参加いただきまして本当にありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

〈前編〉を読む

※講演全編(106分)はこちらから動画でご覧いただけます。

 

文/種石 光(ドットライフ)