積極的テクノロジー活用は、生徒たちをより深く理解し成長を促すため、指導のヒントを探るための手段にすぎない

シリーズ第2回目に訪問したのは、高校サッカーの強豪校、静岡県立藤枝東高校。7年間サッカー部監督を務め、2022年1月からはヘッドオブコーチングとして引き続き部活動指導に携わっている小林公平氏。自身も同校の出身であり、2年生の時にU-17日本代表、インターハイ準優勝などの経験を持つ小林氏は、監督としてもその手腕を発揮してきた。長年、試行錯誤しながら手探りでテクノロジーを活用してきたという、その手法や意図について、星野氏との対談で明かしていく。

インタビュイー

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小林 公平
静岡県立藤枝東高校サッカー部 ヘッドオブコーチング

1984年生まれ。静岡県出身。小1からサッカーを始める。藤枝東高校2年生の時(2001年)にU-17日本代表、インターハイ準優勝、国体優勝、3年生秋に国体準優勝を選手として経験。国士舘大学を卒業後、藤枝東高校非常勤講師、湖西高校サッカー部監督を経て、2015年藤枝東高校サッカー部監督に就任。保健体育教諭も務める。同年冬に全国選手権、2018年夏にはインターハイ出場。2022年1月から同部ヘッドオブコーチングに就任。

進行

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星野 明宏
株式会社オフィスホシノ代表取締役、東芝ブレイブルーパス東京 プロデューサー

1973年生まれ、東京都出身。桐蔭学園高校、立命館大学ではラグビー部で活躍。その後電通に入社し、スポーツビジネスを手がける。2007年に静岡聖光学院中学校・高等学校の教員となり、ラグビー部監督に。週3日、1日90分という練習環境ながら、当時弱小高校だったチームをわずか3年で全国大会初出場に導いた。独自理論や手腕を買われ、U17・18カテゴリーのラグビー日本代表監督にも就任。静岡聖光学院では教頭、副校長そして校長を歴任した。2022年7月、東芝ブレイブルーパス東京のプロデューサーに就任。著書に『凡人でもエリートに勝てる人生の戦い方。』 (すばる舎)。

選手の頑張りを知り、指導の客観的なヒントを得る。趣味の延長からデジタルツールを取り入れ始めた

(星野)小林先生のご活躍はほかのメディアでもたくさん取り上げられているので、今日は特に、部活動でのテクノロジーの具体的な活用方法など、指導者の方に読んでもらって参考になるような経験談をお聞きしたいと思います。

(小林)よろしくお願いします。

藤枝東高校サッカー部の取り組みを紹介するセミナー動画を拝見しましたが、すごいレベルで、非常に進んでいらっしゃると感じました。テクノロジーを導入されたのはいつ頃ですか?

藤枝東高校サッカー部ヘッドオブコーチング小林公平氏

7年ほど前に、まず時計型のGPSとハートレートモニター(心拍数モニター)を導入しました。その頃はどう活用できるか分からなかったので、まず自腹で買ってみて、生徒につけてもらいました。私自身がとにかく指導の客観的なヒントが欲しくて、インターネットなどでいろいろ探して情報を読み漁って見つけたうちのひとつがテクノロジーでした。当初は、選手たちが実際どれだけ走っているのか知りたい、という興味が強かったですね。自分の学びのきっかけにもしたいし、生徒に還元もしていきたいということで。

これはもう今日の結論にもなりそうですけど、結局このマインドセットがある指導者かそうじゃないかで全部変わってきちゃうと思うんですよね。現状を常にもっと良くしたいとか、今困っていることを解決したいとか、何かを強みにしたいっていうのがあった上での選択肢のひとつとしてテクノロジーを導入されたという。具体的にどう活用されていますか。

練習の中で強度をある程度設定して、そこに達しているかどうかをGPSなどを使って確認しています。日によって設定通りいく時と足りない時があり、選手のトレーニングの様子によっても変わってくるので、そこを微調整します。選手もトレーニングが終わった後はすぐタブレット端末で見直して、その後ONE TAP SPORTSの方にデータを入れて。4週間の強度の波を確認しながら、振り返っています。

試合だけではなく、日々のトレーニングから?

データ化するにあたって、私が一番知りたかったのはトレーニングの強度と練習の量でしたね。ゲームの情報はイメージがつきやすいけれど、実際トレーニングは想定通りなのか違うのか、日々積み重ねていくものがなかなか客観的な指標がなくて。

日々の練習からPDCAを回してプロセス重視で計画されているのですね。練習時間は大体どれくらいですか?

マックス120分ぐらいですね。3時半〜5 時半か4 時半〜6 時半。

短いですね。

高校サッカーとしては割とコンパクトかもしれません。その後の自主練は自由ですけど、勉強も頑張ってほしいのでメリハリつけています。

保健体育の教員もやられて、すごくお忙しい中で、テクノロジーのデータをまとめたり準備したりと、毎日何時間くらいそういったことに費やされているのですか?

長い時で2、3時間かかる時もありますね。映像を見て分析するところに一番時間がかかります。あとはONE TAP SPORTSに集まったデータを確認する感じです。

今、担任もされているとか。さらにヘッドオブコーチングの立場でトップチームを含めて映像分析やGPSデータの分析もして。その情熱はどこから来るのでしょう?

とにかくサッカーが好きなのと、指導すること、生徒と向き合うことが本当に好きっていう。もう趣味みたいな感じです。

データで見える化すると、オフザピッチの振る舞いも変わる

東芝ブレイブルーパス東京プロデューサー星野明宏氏

 

私もどちらかというと、分析してドリルに落とし込むとか、ミーティングとかが得意でして。楽しいし、生徒のモチベーションも上がって効果が出ると面白いですね。テクノロジーを導入して、オフザピッチのところで選手たちに具体的な変化などありましたか?

オフザピッチでいうと、ONE TAP SPORTSで日々自分のデータを積み重ねていくことで選手たちの自己調整力が高まったと思います。ちょっと調子を崩した時や、良かった時はどんな感じだったかな?と振り返ってチェックする選手もいますね。

やっぱり自己評価が大切ですよね。それは勉強にも生かせることで、調子が悪い時にどういうふうに自分を奮い立たせていくかとか、調子が良すぎる時にどうやってセーブするか。そういう自己コントロールができるようになる。

そうですね。24時間をデザインするっていう感覚。テクノロジーを取り入れて、疲労度の蓄積とか自分のことが分かってきて自分でケアの時間を取らなきゃいけない。でも勉強ももちろんしたいので、効率とかメリハリを求め始めている選手が多いかなと思います。その辺はすごくプラスになっています。

そうですよね。勉強も頑張りたい、プライベートも楽しくしたい、サッカーも頑張りたいってなると24 時間じゃ足りなくなる。そこでどう調整するかという意識を高校時代から培っているのは、いいですね。
S級のチームになるためには、普通にやっていたら無理なので、そこにテクノロジーを導入したというところに共感します。私も静岡聖光学院ラグビー部で指導していた時は、練習時間が1日90分しかないので、どう効率を上げて戦うかを考えていました。結果、アナリスト兼選手をめざす生徒が増えた。彼らはその後、帝京大学ラグビー部でアナリストとして活躍し、9連覇した時の8年間は静岡聖光学院出身のアナリストだったんです。藤枝東さんは文武両道もできる風土なので、子どもたちはすごく可能性を秘めていると感じます。

生徒はいつ、データを入力したり確認したりするのですか?

GPS、ハートレートをつけている生徒は練習終わりにタブレット端末で自分の数字を確認します。しばらくしたら自分のスマホにもアップロードしたものが送られますが、その場で確認していく生徒がほとんどですね。入力のほうは、何時までに入れるように、と伝えている項目と、その日中であればいつでもよいという項目とに分けています。

藤枝東高校サッカー部
練習後、タブレット端末で自分のGPSデータを確認する藤枝東高校サッカー部の選手(写真提供:小林氏)

入力率が悪いっていう悩みはありませんか? 

私の場合、めちゃくちゃ細かくチェックしているんですよ。入力してない生徒には声掛けしますし、何かコメントを入れてきた生徒には校内で会った時に直接返事したりしているので、見てくれている、と選手も分かっているので、比較的入力してくれますね。

練習前のプレビューとして何か使っているものはありますか?

練習前に一番使うのは映像ですね。今日はこういう練習がしたいから、週末のゲームではこういうふうにプレーしたいからという時は映像を見せます。自分たちの過去のプレーや、参考にしている海外やJリーグのチームのプレーなどを編集します。

その編集、大変ですよね。

そうですね。編集に一番時間かかりますが、今はHudl(ハドル)という映像分析ツールを入れているので、自チームの映像がプレーごとにタグ付けされてストックされていくので、かなり時短にはなりました。

映像分析は何年ぐらい前から?

それはもう前の学校でもやっていたので、10年以上前からですね。

10年!? かなりの先駆者ですね。今までいろいろなテクノロジーを導入される中で、特に改善した点はありますか?

GPSとかでトレーニングを可視化できるようになったので、日々答え合わせしながら、もっと良くする方法はないかなという改善を続けています。トレーニングはかなり蓄積できてきたかなと思います。

練習ドリルを考える前提としてエビデンスがあって、仮説で新メニューを作ってやってみて、また改善すると。その繰り返しで小林イズムが入っている育成練習メニューになったわけですね。

そうですね。自分の中でトレーニング量とか運動強度みたいなものもセットでカタログ化したいって思ってつくってきました。オリジナルのカタログになると最高だなと。

テクノロジーを活用する中で、ステークホルダーから理解されなくて困った思い出ってありますか?

生徒たちは、自分たちで良くなっている実感があるみたいで結構理解してくれています。ですが、周りの大人からは、テクノロジーに頼りすぎじゃないか、というふうに見られることがありますね。データじゃなくて、ちゃんと選手を見ないといけないよ、と。

それは逆ですよね。めちゃめちゃ選手を見て判断しているからこそ、もっとこうしたい、ああしたい、という欲が出てくるわけですよね。それで、徒手空拳じゃ時間かかるからテクノロジーを活用しているわけなのに。

そうです。ちゃんと生徒に向き合い、指導を省みることも大事にしているので、テクノロジーだけに頼っているっていう感覚も全然ないんです。テクノロジーは指導ツールのひとつ、道具のひとつにすぎません。

藤枝東高校サッカー部ヘッドオブコーチング小林公平氏
選手たちを知るため、指導のヒントを探るためテクノロジー導入を始めたという小林氏(写真:藤枝東高校サッカー部Facebookより)

便利なツールがない時代から、アナログノートにデータを記録。モチベーションムービーをお手製で制作

先ほど前の学校という話が出ましたが、先生は藤枝東高校の前は静岡県立湖西高校で6年間教えられていました。湖西高校のサッカー部って当時どれくらいのレベルだったのでしょうか。

私が行った時に部員が14人しかいなくて、選手が風邪引くと練習試合に私が出ていました(笑)。

青春ですね。いいですね。6年間でどれくらいの成績になっていったのでしょうか。

最初は地域の2部リーグ、一番下のリーグでしたが、県リーグにまで上がりました。最後の5、6年目は東海大静岡翔洋高校(サッカーの強豪校)を倒して、県でベスト16ぐらいまでいきました。部員数も99 人まで増え、男子生徒の3人に1人がサッカー部所属という規模に。

すごいですね、そこまでいくともう町おこしまで一緒にしちゃったような感じになったのでは。

本当に。町や市長まで応援してくれましたね。

私立にいた人間からすると羨ましいですね。公立校は町のチームになって、町おこしできるじゃないですか。それを実践されたわけですね。いい話だなぁ。逆に、失敗した話はありませんか。

藤枝東高校サッカー部ヘッドオブコーチング小林公平氏

ありましたよ。最初は3年生にボイコットされて。しばらくして戻ってきてくれましたが、1 年目はもちろん結果がうまく出ず。その前にいた藤枝東で2年間教えた時の感覚で練習メニューを組んだら、湖西の彼らにとっては「こんなキツい練習したことない 」って。私の情熱が 1人で空回りしていた感じでしたね。

その頃からテクノロジーを積極的に取り入れていましたか?

映像は当時から取り入れていました。最初はピンと来なかった子も、モチベーションビデオを作って見せると、めちゃくちゃモチベーションが上がっていました。

映像は効果ありますよね。

あとテクノロジーではないですけど、プレーデータはアナログで記録していました。例えばパスしたら横線引いて、成功したらマルをつける。それだけでも選手にとっては感じるものがあったみたいでした。それが私のデータ活用の始まりでした。

湖西高校では、モチベーションビデオを作って見せたり、データ活用したり、みるみる効果が上がったということですね。本格的にデジタルツールを入れ始めたのは藤枝東高校に移ってから? それはご自身で探されたのですか。

人を紹介してもらったり、営業に来てもらったりして話を聞いて、いいなと思ったものは取り入れてきました。開発中の段階でお話をいただいた時は、こちらの要望を伝えることもありました。

やっぱり商品開発に関わるくらいの気持ちでやってほしいですね、指導者は。ツールとかテクノロジーに支配されているようではダメで。指導者自身がプロデューサーじゃないといけないと思います。ところで、費用面はどうされていますか。

父母会費っていうのを集めさせていただいていて、その中でやりくりできています。1人当たり月で換算すると、それほど大きな金額ではないです。父兄も選手もしっかり理解してくれていて。うちはサッカー後援会とかOB会もありますけど、基本的に選手が使うツールに関しては父母会費の方で賄えています。

湖西の時もそうでしたか?

湖西の時は逆に、父母会費を下げたくらいです。お金をかけずに工夫できるもの、僕のマンパワーで解消できることが多かったので。ただ組織が大きくなったりすると、それだけじゃうまくいかない部分が出てくるので、藤枝東に来てからはいろんなツールを活用させてもらっています。

東芝ブレイブルーパス東京プロデューサー星野明宏氏

よく「私立とか実績のあるチームはお金がいっぱいあっていいですね」とか言われることもありますけど、先生のように公立高校でも、実績がないチームでも、うまく導くことができる。公立私立は優劣じゃなく、それぞれの環境においてメリット、デメリットがあるという話ですよね。先生はSNSを使って発信することにも力を入れているそうですが、経営者というか、マネージャーの観点ですね。先生の課題解決力とか決断力はどこで養われたのですか?

指導者になってから、そういう感覚が強くなってきましたね。自分が選手として、アマチュアではそこそこのキャリアを築いたけどプロになれなかった。何とか指導者としては頑張りたいという思いで。普通のこと、ほかの人と同じことをやっているようでは何も成し遂げられないだろうなという思いが強いです。

保健体育の授業が、スポーツの力を生かし、テクノロジーやチームビルディングに触れられる場となる可能性

東芝ブレイブルーパス東京プロデューサー星野明宏氏

 

私、これからの教育には保健体育が重要な役割を担っていると思っています。部活で使っているデジタルツールとか、チームビルディングの手法をもっと保健体育の授業でも生かせれば、教育的な改革が絶対できると思っているのですが、その点は保健体育の先生としていかがですか?

チームビルディングみたいなものは、実際今も授業に取り入れています。ゼロからだと難しいから、私の方でトレーニング組み立てからゲーム運営みたいな理論的なことを教えて、あとは生徒が自分たちでチームづくりをするような授業をかなり増やしています。

いい取り組みですね。ビジネスコーチングって、実は結構スポーツコーチングからの影響が大きいといわれていますよね。スポーツの理論が世の中になくてはならないものになる可能性があると思っています。今先生がおっしゃった授業もそうですね。あとデジタルツールで自分の体調管理とか、どんどんそういうことを授業にも取り入れてほしいですね。

それこそテクノロジーも、機能的には簡単なものでいいから安価に普及するといいのになと思います。例えば体育の授業でGPSとかに簡単に触れられる機会があれば、生徒が嫌がりがちな長距離走なども、目標設定が見える形になり意欲も湧くんじゃないかと思っています。スポーツの価値を、保健体育の授業でも存在感を高めていかなきゃいけないと思います。

そちらの方も期待しています。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

藤枝東高校サッカー部ヘッドオブコーチング小林公平氏と東芝ブレイブルーパス東京プロデューサー星野明宏氏

文/河津万有美  撮影/曾根雅己