元Vリーガー監督座談会|選手時代の経験を「教師」にも「反面教師」にも。学び続ける若き指導者たち

現在高校女子バレーボール部で指揮をする3人の女性監督に集まってもらった。彼女たちはVリーグのチームでプレー経験を持つ元トップアスリート。引退後のキャリアに高校教諭・バレーボール部監督を選んだ。プレーができれば指導もできるのか——プレー経験が生きるのは間違いないが、指導者として模索しながら、学びながら、自分が受けた指導とは違う、新たな指導を見つけようと歩み出した3人の若手女性監督に、イマドキ世代への指導について語り合ってもらった。

インタビュイー

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土井 さくら
秋田県立由利高校 教諭、女子バレーボール部監督

1995年生まれ、秋田県出身。小学3年生の頃バレーボールを始めた。高校時代(秋田県立秋田北高校)には代表メンバーに選ばれ、世界ユース選手権に出場。筑波大学に進学後は、2013年に開催された世界ジュニア選手権に出場し、28年ぶりとなるチーム準優勝に貢献した。翌年開催された東アジア地区バレーボール選手権大会にも日本代表として出場し、優勝に貢献。大学4年生の時には主将を務めた。2017年に大学卒業、Vリーグ日立リヴァーレに入団。2020年に引退後、大成女子高校バレーボール部コーチを経て、2021年から秋田県立由利高校 保健体育科教諭・女子バレーボール部監督に就任。

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徳川 恵理
熊本県立熊本商業高校 教諭、女子バレーボール部監督

1984年生まれ、熊本県出身。熊本信愛女学院高校、鹿屋体育大学を卒業後、2006年、Vリーグ久光製薬スプリングスに入団。2009年、三洋電機レッドソアに移籍。2011年、引退。熊本県立八代清流高校を経て、2021年より体育科教諭として熊本県立熊本商業高校に赴任。女子バレーボール部監督に。

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原田 美愛実
聖望学園高校(埼玉県) 教諭、女子バレーボール部監督

1992年生まれ、秋田県出身。秋田県立角館南高校、東京女子体育大学を卒業後、2015年、Vリーグ柏エンゼルクロス(現・千葉エンゼルクロス)に入団。2017年引退後、2年間スタッフとしてチームに在籍。2019年、埼玉県飯能市の聖望(せいぼう)学園高校女子バレーボール部監督に就任。2020年夏から非常勤講師、翌年から特任教諭として勤務。

プレーヤー時代の怪我の経験があるから、コンディションへの理解を高め、身体づくりに取り組む

今日はどうぞよろしくお願いいたします。まずチームの選手数の規模と、普段の練習はどのくらいされているか教えてください。

元Vリーグ女性監督座談会
写真上から時計回りに、徳川恵理さん(熊本県立熊本商業高校)、土井さくらさん(秋田県立由利高校)、原田美愛実さん(聖望学園高校)。まん延防止等重点措置により活動がままならない中、お集まりいただいた(対談実施日:3月2日)

土井さん:1年生(新2年生)13名、2年生(新3年生)6名の19名です。平日は16時から19時くらいまで練習しています。週末は練習試合ですね。休みは週1日です。今は秋田県で新型コロナウイルス感染症対策のために活動は自粛中でまったく練習できていません。各自自主トレをしてもらっている状況です。

徳川さん:マネージャー含めて14名です。練習は土井先生とまったく同じで、平日は16時から19時の練習、週に1日月曜日がお休みです。土日は練習試合を行っています。熊本県でもまん延防止等重点措置で1カ月ほど活動ができていなかったのですが、ようやく市の大会に向けて練習を再開したばかりです。

原田さん:1年生12名、2年生8名の20名です。プラス、中高一貫校なので中学生を4名受け入れています。うちも同じで週に1日お休みで、平日は16時から練習しています。練習は日によって違うのですが、19時半には終わっています。1月に感染者が出てしまい、ひと月活動自粛期間が続き、ようやく2週間前から週2日だけ部活動が可能になったので、チームを2つに分けて週に合計4日活動再開しました。

自粛からの活動再開は気を遣いますね。女子選手は特に、月経にまつわるコンディションは普段からモニタリングされていますか?

土井さん:いきなり練習すると怪我するし、自粛中のコンディションも心配でした。ONE TAP SPORTSの感染症対策項目(体温、咳の有無、喉の違和感、頭痛の有無、身体のだるさ、味覚嗅覚の異常、同居人の症状)を入力してもらって、毎日確認していました。

普段のコンディションは、月経がある時はONE TAP SPORTSに記録してもらっていますが、確認するだけで選手が何も言ってこない時にこちらから何かアクションしたりすることはありません。けれど、なんか調子悪そうだな、と思って「どうしたの?」って声をかけたら月経中です、と言う子もいますね。特別なことではないから、みんな我慢しがち。どうしても辛い時は申告してくれています。

秋田県立由利高校女子バレーボール部監督土井さくら 氏

私自身が、学生時代に長い間月経が止まっている期間があって、大きな怪我もしたので、「月経をあまく見ちゃだめだよ」「来なかったら早く言ってね」と伝えています。病気が隠れている場合もあるし、痛みもあって当たり前じゃないよ、とも。

徳川さん:うちもONE TAP SPORTSに月経を入力してもらって、参考にしている程度です。心と身体の成長期なので、不安定なこともあるかな、と思っているので何か相談を受けた時はアドバイスしたりしています。

原田さん:私もONE TAP SPORTSの月経管理はしています。どの生徒が月経中かという把握はしているのですが、こちらから何かすることはないです。柔道整復師の夫から、月経中に多い怪我については聞いたことがあるので、注意はしています。

プレーヤー時代、怪我は多かったのですか?

原田さん:高校時代、いわゆる「ジャンパー膝(ひざ)」だったんです。ずっとステロイド注射を打ちながらプレーしていました。痛かったですが、それでも試合に出たかった。大学時代に膝が限界になり、膝蓋靭帯を手術しました。社会人になってからは、膝をかばって足首を痛め、足首も手術しました。ずっと怪我との闘いでしたね。

徳川さん:私も高校時代、春高バレーの試合中に右足を脱臼しました。ブロックの着地の時に気付いたら足の裏が上向きになっている状態でした。すぐ救急車で運ばれて治療してもらったのですが、腫れ上がってしばらく練習もできず試合にも出られず。怪我は多かったです、私も。

皆さん、怪我されてきたのですね。

原田さん:トレーニングもしないでバレーばかりやっていましたから、筋力もなかった。今思えば、それが原因かなと思っています。なので、今の選手たちが怪我しないように、練習はトレーニングが中心です。練習3時間のうち、1時間半はトレーニングに充てています。バレーしながらも、トレーニングになる動きを取り入れたり。自分がやってくればよかったな、と思っていることを選手たちにも伝えています。
ONE TAP SPORTSでコンディションを入力してもらっているのも、そのためです。睡眠時間や疲労感、身体の違和感や痛みなど、項目は多いですがみんな入力してくれています。

徳川さん:私は、現役時代に毎朝基礎体温は測っていました。基礎体温を測って記録することは、今後取り組んでいきたいな、と思っていることのひとつです。そのためには、「なぜ測るのか」「何が分かるのか」ということをしっかり理解してもらって始めることが重要だと思っているので、経験を通じて伝えていきたいですね。

土井さん:うちもトレーニングを増やしていきたいな、と思っています。そのためには、現状を知ることから始めようかなと考えています。体力測定や体組成計で筋量を調べたり、選手たちにも分かるよう数値化したいな、と。徳川先生がおっしゃるように、重要性を理解してもらって取り組みたいですね。そうすれば、怪我予防にもなるし、パフォーマンス向上にも主体的に取り組めていいかな、と思います。

トレーニングをするにも、ウエイトをメインにするか、体幹やアジリティ(敏しょう性)を鍛えたほうがいいのか、高校生は時間も限られるし、試合・シーズンの時期にもよるので、何を優先して組み立てていくか、ということはちょっと悩みどころです。

原田さん:体力測定は私もやっています。「(数値が)伸びたね!」って言い合いながら、選手のモチベーションにもなっているので、今年はそのデータを記録していこうと思っています。今年で今のチームを指導して4年目になるので、少しずつ結果が出てきている部分も見えてきて、何をやったことが良かったのか、って振り返られるように私が頑張って記録していかなきゃな、って思っています。

選手の皆さんのセルフコンディショニングの意識はいかがですか?

土井さん:正直、課題ですね。コンディションとか、自分の身体の状態に敏感になって個人個人で取り組んでほしいんですが、高校生なのでまだ仕方ないかな、とも思います。でももうちょっと求めたいですね。1週間のテスト休み期間中は、体重・体脂肪が増えないようにね、って自己管理してもらっていたりはします。

徳川さん:そうですね、練習中にクールダウンに使う時間がないので、各自帰宅して15分くらいでも、テレビ見ながらでもいいから、やってねということは指導しています。夜は必ずお風呂に浸かるように言ったり。食事については、ONE TAP SPORTSの食事管理機能を使って、毎日朝昼夜写真を撮って投稿してもらっています。ONE TAP SPORTSのサポートの方に食事について選手たちに説明に来てもらってから、食事の変化はすごくありました。その資料を保護者にも配って私から説明しました。やっぱり高校生はまだ食事を自分で管理するのは難しいので、保護者の協力のおかげでかなり変わりましたね。

自分たち世代が受けてきた指導スタイルは、今の時代には合わない。主体性を育む指導に

監督の皆さんがプレーヤー時代に受けた指導と比べて、今はどんな指導が必要だと思いますか?

徳川さん:私の高校時代は、まだパワハラ時代で、主体性どころではなく、監督に怒られないよう叩かれないようにミスをしない。スパイクを決める。というバレーでした。私はそんな指導をしたくない。
新1年生が入ってきたら「ポジションとられちゃうよ!」と言われて、「なにくそ!」という気持ちで頑張ってきました。今の選手たちにそんな遠回しな表現でやる気を出させようとしても、かえって萎えちゃうようです。なので、ストレートに伝えるようにしていますね。まだ課題はたくさんあり、難しいですね。

聖望学園高校 女子バレーボール部監督原田美愛実 氏

原田さん:難しいですね。自分がプレーヤーとして経験して良かったことは伝えていきたいです。私が着任した時、ちょうど前任の監督と入れ替わりのタイミングで。だから「次はどんな監督だろう?」って見られていたと思います。だから私は「絶対結果を出そう」と心に決めて取り組みました。

最初その地区のベスト8からのスタートだったのですが、1年後に県のベスト8になることができました。その1年がとても大きな経験で、私にとっても選手にとっても自信になったと思います。小さい目標を立てて少しずつクリアしていくことで自信がついてくるのかなーと思っています。

土井さん:以前は、悔しい思いをさせて這い上がらせるスタイルの指導でしたね。あえて厳しい、苦しい練習をさせたり、批判されたり心にぐさっとくる言葉を言われたり。同じことをすると今の選手たちは、その言葉通りダメになっていきます。こちらが怒ったり厳しくしたりしても負のオーラが伝染して雰囲気がすごく悪くなる。

だからと言って、甘い言葉、やさしい指導がよいわけでもないと思っています。ダメ出しをするのではなくて、「どうすればいいと思う?」と、解決に向けたアプローチをしていく必要があるなと思いますね。厳しさだけじゃなく、楽しさを感じながら強くなっていくのが今のスタイルかな、と思います。

勝つとか全国大会に出場するとか、「勝利」だけを目標にしていると、いつか心が折れるので、「あなたは何のためにバレーしているの?」「この先どうなりたいの?」というバレーをやっている目的を明確にして道筋を作ってあげないといけないな、と思っています。バレーノートを毎日つけてもらっていて、そこでやりとりしていますし、定期的に面談もしています。バレーノートを毎日、全員の分見るのは大変ですが、何とかやっています(笑)。

指導のアップデートをする機会は多くありますか?

土井さん:先日、初めてスポーツ指導者のオンライン勉強会に参加しました。バレーだけでなく競技横断で年代もさまざまな方が集まる会でした。グループに入っているだけでもいろんな情報提供をしてくれるし、今はオンラインで手軽に参加できます。私たちは教える側ですが、教師の学ぶ場は学校にはあまりないので、自分で探していかないといけないですね。

熊本県立熊本商業高校 女子バレーボール部監督 徳川恵理 氏

徳川さん:私は、学校でもいい出会いに恵まれて、体育科の先生方がバスケ、陸上、ソフトボールのそれぞれスペシャリストなので、ほかの先生方の指導方法に触れる機会も多く、体育職員室でいろんな学びがあります。あとは、県外での練習試合で相手チームの先生に教わることも多いです。練習より私が学びに行っているようなものですね。
ベスト8以上のチームは県内のチームと練習試合ができないので、近くの高校と試合できるようにしたいです。熊本県全体で強くなるようにもっていけるといいなと思うのですが。

原田さん:埼玉はそこまで厳しくはないですね。県外に出てまで練習試合って話はあまり聞きません。地域性もあるのかな。
私のチームでは昨年から、ハンドボール経験のある先生がバレー部の副顧問になって私のフォローをしてくださっていて、とてもいい環境で指導ができています。選手全員の意識を揃えるのはとても難しく、勝つためには、差がある選手のフォローばかりもしていられないですし。どんなチームにしたいか、ってことを理解してくれている先生と一緒に、役割分担しながら指導に専念させてもらっているのでとても助かっています。

チームの目標と指導者としての目標をそれぞれお聞かせください。

秋田県立由利高校女子バレーボール部監督土井さくら 氏、熊本県立熊本商業高校 女子バレーボール部監督 徳川恵理 氏、聖望学園高校 女子バレーボール部監督原田美愛実 氏

土井さん:チームの最終目標は全国ベスト8です。夏の高校総体の県予選で優勝して、インターハイに出場できるように、まずはそこを目指して頑張ります。
一人ひとりの発言を増やして主体性を持ったチームにしていきたい。こちらが一方的に発信するのではなく、自分たちの目標に向かって、「だから今はこれに取り組もう」と自分たちで考えて、振り返ったりできるような。それから、県全体のバレーのレベルを上げたい。そのためには、バレー部がない学校もあるので、小さい頃からバレーに触れる機会、バレーをやりたいな、って思ってもらえる活動にも取り組みたいなと考えています。

徳川さん:私たちは県立高校なので、「県立で春高バレーに出る」ことが目標です。
指導者としては、土井先生と同じで主体性あるチームにしたいと思っています。バレーという競技は、1セット中に2回しかタイムがとれません。しかもわずか30秒です。なので、コートにいる選手一人ひとりの判断力や考える力がとても重要になります。主体性を持って取り組むことは、バレーだけでなく社会に出てからも通用する人に成長できる支えになると思っています。あとは、選手に目線を合わせて、あたたかい指導を心掛けたいと思っています。

原田さん:まずは、県のベスト8。私たちはスローガンとして「応援されるチーム」を掲げています。応援されるチームってどんなチームだと思う?と一人ひとりに考えてもらっています。今は観客に入ってもらって試合を見てもらう機会がほとんどないので。見てもらっていいチームだな、って思ってもらって次の世代に入ってきてもらえるといいなと思います。ベスト8の後は、県でトップ、そして全国を目指したいです。
うちの学校は中高一貫なので、もうひとつ身体があれば、中学生のチームも作りたい気持ちです(笑)。バレー人口も減ってきているので、競技普及のお手伝いもしていきたいですね。

楽しみにしています。今日は皆さん、ありがとうございました。

 

座談会実施日:2022年3月2日

取材・文/TORCH編集部