Session 3: 成長期スポーツ選手の「成長力」を引き出す指導の実践法

オンラインミーティング「部活動・日本のジュニアスポーツを考える」3つ目のセッションでは、江戸川大学男子バスケットボール部、実践学園中学校男子バスケットボール部でアスレティックトレーナーを務める星川精豪氏の「バスケットボールの指導現場から学ぶ、ジュニア選手の成長力を引き出す指導の実践」をテーマに講演をお届けする。

講師

講師
星川精豪
日本バスケットボール協会技術委員会スポーツパフォーマンス部会、江戸川大学男子バスケットボール部、実践学園中学校男子バスケットボール部、聖路加国際病院整形外科アスレティックトレーナー

1983年生まれ、山形県出身。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科アスレティックトレーニング専攻修了。新潟アルビレックスBB、青山学院大学フィットネスセンター、早稲田大学ラグビー蹴球部を経て、現在は江戸川大学男子バスケットボール部、実践学園中学校男子バスケットボール部、聖路加国際病院整形外科にてアスレティックトレーナーを務める。日本バスケットボール協会の技術委員会スポーツパフォーマンス部会にも所属する。

スポーツを通じて、より豊かな成長を

日本バスケットボール協会に所属し、各年代の日本代表チームに同行するなかで、日本チームと外国チームとのレベル差を痛感してきたという星川氏。部活の指導をするなかで星川氏が掲げているのは「バスケットボールを通し、人生を豊かに」というテーマだ。普段から選手たちへ伝えている二つのことを語った。

「一つ目は、ちゃんと頑張れば、必ず成長できるということで、二つ目は、大好きなバスケットボールで学力(非認知スキル)をあげられるということです」

特に二つ目を意識して伝えている背景には、スポーツ選手からよく「学校での勉強が社会で何の役に立つのか分からない」と言われることがあるのだと言う。学んだことを実践に役立てるには、持っている知識を直面している問題に活用する能力を育てなければならない。星川氏はスポーツを通してその力を身につけることができると考えているのだ。

「私はスポーツ選手の指導をする際は、彼ら彼女ら自身が目標達成のために状況を把握、判断できる力を養うことができるように心掛けています。何が起こっても状況を判断しながら考え、成長できる力を身につけられれば、人生は豊かになると考えています」

さらに星川氏は、ジュニア期に関わるアスレティックトレーナーとして、より具体的に意識している三つのことを挙げた。

「一つ目はアダプティブラーニングです。これまでの教育現場では、人数が多く学年単位やチーム単位で指導内容を考えていました。しかし、子どもたちは一人ひとり違う悩みや課題を抱えています。それぞれが抱えている悩みや課題に個別に対応しようと試みています。

二つ目は外傷・障害の予防です。スポーツ選手の中には、ジュニア期に負った怪我に悩まされている人も多くいます。最近はオスグッド・シュラッター病により身長に影響が出ているのではと言われておりますので、それも含めて予防ができればと考えています。

三つ目はアントラージュコミュニケーションです。スポーツ選手に関わる全ての人々としっかり連携を取り、支えていきたいと考えています」

個々の成長度に合わせ、最適なトレーニングを設計する

次に、星川氏は「アダプティブラーニング」「外傷・障害の予防」「アントラージュコミュニケーション」それぞれについて、詳細を説明した。

最初に説明したのはアダプティブラーニングの概要とその実践例だ。前提として、指導者が意識すべき個々人の違いについて、「身長体重」「筋力」「有酸素能力」の三つを例に挙げた。身長体重については、性別、年齢、人種によって差が生まれるのだと話す。

「いろいろな論文を見る限り、男子と女子とでは女子の方が発育が約2年ほど早いと言われています。女子の身長が最も伸びる平均の年齢が11歳なのに対し、男子は13歳頃です。身長の伸びが落ち着く約2年後に、今度は体重が増加します。女子は13歳で男子は15歳頃です。ただし、身長体重の伸び方には個人差があることにも留意してください。

また、人種によっても違いがあるので、日本人の特性を理解する必要があります。日本人は早熟傾向であると言われており、他国と比較すると成長が2年ほど早いことが分かっています(最近ではその差は埋まってきているという報告もあります)」

次に、筋力についても、男女でその成長の仕方に差があるのだと説明した。

「新体力テストのデータを見ると、男子に関しては、大体12歳から16歳にかけて急激に記録が向上していることが分かります」

新体力テストの男女別データ

「一方女子の筋力は13歳ぐらいまででほぼピークに達し、その背景にはホルモン分泌の違いが関係していると言われています。男性ホルモンは筋肉がつきやすく、女性ホルモンは脂肪がつきやすいのです」

次に、有酸素能力の成長傾向についても触れた。

「20mシャトルランのデータを見ると分かりますが、身長が一番伸びている時期に男性も女性も有酸素能力が伸びていることが分かります」

有酸素能力が伸びているシャトルランテスト結果

さらにここで、成長の段階を見やすくするため、村田光範先生(東京女子医科大学名誉教授。研究分野は胎児医学、小児成育学、栄養学、健康科学など多岐にわたり  『基礎から学ぶ 成長曲線と肥満度曲線を用いた栄養食事指導』(第一出版)、『子どもの健康とスポーツ』(医歯薬出版)など多数の著作がある)が提唱した「標準化成長速度曲線」という、スポーツ選手の年齢と標準的な身長の伸びとの関係性について説明した。

成長速度曲線をフェーズに区切り指導内容を変える

「標準化成長速度曲線には三つの大事な点があります。まず一つ目は、Take off Age(テイクオフエイジ)という点で、これは身長が急激に伸び始める点のことです。見て分かるように、直前に身長の伸びが少し緩やかになります。二つ目は、1年間で最も身長が伸びるタイミングであるPHVA(Peak Height Velocity Age:PHAやAPHVなど文献により呼称は異なる)。そして三つ目は、身長の伸びが1cm未満になる点であるFHA(Final Height Velocity Age)です。

それぞれの点を転換点にし、生まれてからTake off Ageまでをフェーズ1、Take off AgeからPHVAまでをフェーズ2、PHVAからFHAまでをフェーズ3、そしてFHA以降をフェーズ4と子どもの成長期を4つの期間に分けることができます」

標準化成長速度曲線を基に、それぞれのフェーズに適したトレーニングについて言及した。

「まずフェーズ1においては、基礎体力を養成するのに適した期間だと言われています。いろいろな動作ができるようになりやすい期間なのです。

フェーズ2は持久力が伸びやすいことが分かっています。フェーズ3では筋力増強のトレーニング効果が得やすいことが分かっています。そしてフェーズ4では身体の成長が一旦落ち着くので、成人と同様のトレーニング、つまり制限なくトレーニングをしても問題なくなります。それぞれのフェーズによって高まりやすい能力は違いますので、成長速度に合わせてトレーニングプログラムを組む必要があるのだと思います」

成長度合いは人によって変わるため、スポーツ選手それぞれの成長速度曲線を描くことが必要となる。そのためには何をすればいいのだろうか。

「まずは身長測定が大事だと思います。現在の小・中・高校生は3学期制で、それぞれの頭に身体測定を行う学校が多いです。約4カ月おきに身長と体重を測る機会があるわけです。計測したデータを下記の表に入れていくと簡易的に成長速度曲線を求めることができます」

成長予測

「例えば、中学1年生の4月で身長160cmだった人が9月に165cmになっていた場合、該当する年齢の5cmのところに点を打つわけです。それを繰り返すことで、Take off Ageなど重要な点が見えるようになります。

ただ、これだけだと難しいところもあるのでほかにも代表的な検査方法を紹介します。それぞれ、Tanner-Whitehouse法(TW法)、BTT法、Maturity Offset法の3つです。

成熟度、身長予測評価方法

TW法とは、左手のレントゲン写真を撮ってその骨端核の成熟度をスコアリングし、その数値から身長を予測する方法です。BTT法とは、過去の身長を基に将来の身長の伸びを予測する方法です。簡易的に測定できるソフトがあり、私もよくそれを使用してPHVAや将来の予測身長を算出しています。Maturity Offset法とは、身長や座高などのいわゆる身体データと年齢から成長度を測定できる方法です」

成長度を測定しつつ、それぞれの選手に合ったトレーニングを提供する必要がある。

「身体力テストの結果などから身長が伸びる前に敏しょう性が最も向上することが分かっています。つまり、新しい動作の習得がしやすい時期ですので、PHVAの前にはこれまで経験したことのないような未体験の動作を多く行うトレーニングをしてもらいます。例えば、何かひとつの種目を3セットずつやるのではなく、1セットずつでいろいろな動きをしてもらうのです。

次に、身長が伸びるPHVAのタイミングでは持久力が伸びやすく複雑な動きはうまくいかなくなる時期でもあります。なので、単調で一定の負荷がかかるトレーニングを多めにこなしてもらうようにしています。

そして、PHVAを過ぎたあたりからはトレーニングメニューに制限は定めず、必要なものを行うようにしています。例えばジャンプトレーニングであれば、関節にかかる負担は少なくした状態で徐々に負荷を上げていき、FHAを過ぎた辺りからはより大きな負荷もかけるようにしています」

成長フェーズの「脆弱度」「強度」「成長度」に合ったトレーニングメニューを組む

次に星川氏は、外傷・障害予防について説明した。まず、肝心なのは指導者それぞれが関わっている競技についてよく知ることだと言う。

「例えばバスケットボールの場合、走ったりジャンプしたりするだけでなく、ボールを投げる動作も頻繁に行います。そのため下半身だけでなく上半身の怪我にも気を付けなければなりません。また、ほかの球技と比べるとコートが狭いので下肢に大きな負担がかかるのも特徴のひとつです。最近では、ルール改正に伴い身体をぶつける機会が多くなってきており、試合後半の怪我が増えています。

指導者の方にとって、複数のチームに関わった経験がある場合は、それぞれのチームの怪我やその原因を比べることも有効です」

競技ごとの特徴を把握することに加え、ジュニア期・成長期の外傷・障害予防には大きく三つのポイントがあるのだと言う。

「まずは『脆弱度』。成長のフェーズによって骨が弱い時期もあれば筋肉や腱が弱い時期もあります。やはりこれも人それぞれ違うということを理解しておかなければなりません。

二つ目は『強度』です。成長が早い人と遅い人とで同じだけの時間試合や練習をすると怪我が起きる可能性があります。成長が早い選手の方がパワーがある可能性がありますし、体重の重い選手に軽い選手が接触することで怪我をする可能性もあります。

三つ目は『成長度』です。成長のフェーズにより可能な動きが変わります。パワーがないとできないプレーや、スピードがないとできないプレーがあるため、成長度に合っていないプレーをしようとすればそれだけ怪我のリスクが高まります」

選手を取り巻く全ての人と、適切にコミュニケーション

最後に、アントラージュコミュニケーションについても解説。「アントラージュ」とは、フランス語で「取り巻き、環境」という意味で、JOC(日本オリンピック委員会)によると「競技環境を整備し、アスリートがパフォーマンスを最大限発揮できるように連携協力する関係者のこと」と定義されている。さらにその役割を「アスリートを悪しき倫理的問題から守り、正しい身体的社会的成長を守ること」と定義している。

「アントラージュという言葉を聞きなれない方も多いと思います。部活動を行うスポーツ選手のアントラージュとは、選手を取り巻く、選手との関わりを持つ全ての人々のことです。

例えば中学校には顧問の先生以外にほかの先生もいます。チームによっては外部からコーチを招いている場合もあります。加えて保護者や外部サポーターの存在も大きく、トレーナーがいないチームの人が近くの接骨院の先生からアドバイスをいただいているような例もあります。

彼らに成熟度の話をすると、興味を持ってもらえ、特に保護者の方々は栄養や生活面のケアにも気を遣ってくださるようになります。だからこそアントラージュとのコミュニケーションはすごく重要で、それによってスポーツ選手は大きく成長することができるのだと思っています」

育成期の基本用語
「発育」「発達」「成長」「成熟」、その意味は混同されがちだが、成長期の子どもを取り巻く大人が正しく捉え使用する必要がありそうだ

最後に星川氏はセミナーに参加した指導者の方々にメッセージを送った。

「今回お伝えした内容以外にも、世の中にはいろいろな情報があります。例えばスポーツ庁ホームページの『運動部活動用指導手引』では、バスケットボール協会やサッカー協会、日本陸上連盟など各競技団体が発行する、部活指導の手引きを紹介しています。ご興味ある方は、ぜひ見てみてください」

 

※講演全編(60分)はこちらから動画でご覧いただけます。

文/種石 光(ドットライフ)