「おいしさと健康」を追求してきたグリコが、スポーツ栄養学の見地からサプリメントを開発
2022年に創業100周年を迎える江崎グリコ株式会社は、菓子・飲料など多くのロングセラー商品を生み出している、言わずと知れた食品製造の老舗企業。その「お菓子のグリコ」が、近年アスリート向けのスポーツサプリメント開発に力を注いでいることをご存知だろうか?
同社の企業理念は「おいしさと健康」であり、創業当初から「食品事業を通じて、人々の健康に貢献したい」という信念のもと研究開発を行い、独自の栄養食品を生み出してきた。江崎グリコの現在は、たゆみない研究開発のたまものにほかならない。「カキの煮汁」に含まれるグリコーゲンが国民の健康に貢献できると商品化した創業の原点から変わることなく、多くの研究論文を発表してきた。そんな同社の研究開発から生まれてきた新しい素材や技術から、これまで多くの新商品が生み出されてきた。そのひとつが「パワープロダクションシリーズ」だ。
スポーツサプリメント事業に長年携わってきた江崎グリコの田部浩利さんは、「私たちの会社では創業以来、食品を通じた健康を研究し製品を送り出してきましたが、健康向上のためには栄養摂取はもちろん、運動も重要な要素です。長年培ってきた栄養食品分野の研究を、運動の分野にも広げられないだろうか? 運動する人のために必要な栄養とはなんだろう? そんな観点から始まったのがスポーツサプリメントの研究開発でした」と話す。
自身もアメリカンフットボールのプライベートチームに所属し、身体を鍛えてきた経験から、アスリートの体調管理、栄養管理にはひときわ関心が強い。
「スポーツの種類によって求められる機能はさまざま。『瞬発力を発揮するためには?』『持久力を高めるためには?』など摂取シーンを想定し、開発を進めてきました。プロスポーツ選手にも選んでいただけるレベルのものを、という目標のもと商品化し、トップアスリートからジュニアの皆さんまで、幅広くご愛用いただいています」
パフォーマンスをアップさせる運動・休息・栄養のサイクルに着目
パワープロダクションシリーズの歴史は意外に古く20年前にさかのぼる。発表当初は、さまざまなアイテムを幅広くラインアップしていたが、近年は特に、運動→栄養摂取→休息というサイクルの重要性に着目し、回復と休息について研究し、開発を進めてきたという。
「スポーツ科学や栄養学は日々発展していますし、新しいトレンドも生まれています。その中で、この十数年来、『休息』の大切さを最大のテーマとして掲げています」と田部さん。
文字通り「栄養補助」として食事では取りきれない栄養素をサプリメントで補うアスリートも多い。田部さんは、プロのアスリートや、栄養士の方々に定期的にインタビューを行い、スポーツの最前線で何が求められているのか、何が課題か、潜在ニーズは何か…… など知見を常にアップデートしてきた。
「試合があった日の夜は気持ちが高ぶっていたり、落ち着かずに悩むというアスリートの話を聞いたことがありました。翌日まで気分が安定しないそうなんです。そのような、最前線で活躍するアスリート特有の悩みに、技術で応えることが私たちの使命だと思っています」
根拠となるデータの収集や検証を続け、上を目指すアスリートの挑戦に応える
多くの試験、データ解析、改良を経て生み出されるサプリメント。今回江崎グリコでは、実際にアスリートが使用してみた実感を検証する臨床研究(「サプリメントの摂取による、睡眠とサッカー選手のパフォーマンスの影響について」以下、本調査)を行うと聞き、取材を行った。本調査を指揮した田部さんにとって、念願の機会だったようだ。
「トップアスリートとして活躍する方々は、独自の食事スタイルや、飲み慣れているサプリメントなどがすでに決まっている場合が多く、試験協力をお願いするにも難易度が高い。また、2種類のサプリメントを併せて検証することも初めてなので、結果にはとても興味がありました」
実際の調査概要・調査結果は、以下の通りである。プロ・社会人・大学生のサッカー選手約90人に一定期間サプリメントを摂取してもらい、「睡眠状態」や「運動能力」を測定した。
「サプリメントの摂取による、睡眠とサッカー選手のパフォーマンスの影響について」調査概要
- 期間:4週間(28日間)
- 対象者:プロサッカー選手(INAC神戸レオネッサ)・社会人サッカー選手(大和シルフィード、房総ローヴァーズ木更津FC、鎌倉インターナショナルFC、SHIBUYA CITY FC)・大学生サッカー選手 合計約90人
- 目的:「アミノ酸等含有食品」「パプリカキサントフィル含有食品」の摂取による睡眠とパフォーマンス発揮の関係性についての検証
- 調査食品の摂取パターン
- 睡眠調査項目:OSA睡眠調査票/睡眠センサー 運動能力測定項目:反応時間検査/カウンタームーブメントジャンプ※1/30Mスプリントタイム・10Mラップタイム/Yo-Yo間欠性回復力テスト※2
※1 腰に手を添えた垂直跳び
※2 直線20Mの往復を、10秒の休息を挟んで繰り返すテスト
【調査結果】
本調査の結果、以下の3点において有意差がある、つまり偶然ではない関係が見られたという。
- パフォーマンス試験(Yo-Yo間欠性回復力テスト)の結果、走行距離が伸びた
- OSA睡眠調査票の項目(睡眠に関わる状態)の点数に変化が見られた
- 睡眠とパフォーマンス(Yo-Yo間欠性回復力テストや10Mラップタイム)に軽微な相関があった
「Yo-Yo間欠性回復力テストに関しては、「アミノ酸含有食品」「パプリカキサントフィル含有食品」の両方を摂取した群で、1回目測定・2回目測定ともに走行距離が伸びた(測定は全2回)。どちらか一方を摂取した群では、2回目に、より走行距離が伸びた。
参加したチームのひとつ「INAC神戸レオネッサ」のフィジカルコーチ 天野都香沙さんから、本調査に参加したコメントをもらった。
「主観的なデータのみでなく、睡眠センサーを利用した客観的なデータも取っているので、今まで選手自身が認識していなかったことも見えてきたと思います。サッカーは持久力・瞬発力・ジャンプ力など、さまざまな運動要素のパフォーマンス発揮が求められるスポーツです。より良いパフォーマンスを発揮するためには、トレーニングが重要ですが、それと同時に、睡眠も大切であると考えています。コンディションを管理する中で、パフォーマンス向上のために適切な栄養を取れるように日々指導しています」
「INAC神戸レオネッサ」では、トレーニング後30分以内にエネルギー摂取、トレーニング終了後1時間以内に昼食をとるよう選手に促し、エネルギー摂取にはホエイプロテインなどのサプリメントを活用しているそうだ。
サプリメント開発を起点に、スポーツ界に貢献していきたい
今回の調査結果に手応えを感じたという田部さん。
「スポーツ栄養学とデータをもとに研究し続けている中、それにより望ましい結果が得られたことは、自信になりました。この結果を研究部門にフィードバックし、次の研究につなげ、新商品の開発や取り方の提案、マーケティング活動に生かしたいと思います」
サプリメント事業に携わるメンバーは、田部さんをはじめ皆スポーツを愛好し、アスリート目線を大切にしている。
「今回のような臨床研究の機会を増やし、科学的根拠に基づいた誠実な商品開発を続けていきます。事業としてはサプリを通してアスリートにアプローチしていますが、それ以外にもスポーツ界に貢献できることがあるかもしれません。栄養学、スポーツ科学の知識を高め、グリコの企業理念でもある『おいしさと健康』の両輪を発信し、皆さんの豊かな日常に貢献していきたいですね」