成長期の「スポーツ選手」が取るべき食事、栄養のきほん

小・中・高校生など育成年代のスポーツ現場で、身体づくりや栄養管理のサポートを指導してきた管理栄養士の小澤智子氏に、成長期の子どもにとって必要な栄養の取り方や、保護者・監督・コーチに知っておいてほしい知識とサポートの方法について聞く。

インタビュイー

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小澤 智子
管理栄養士/株式会社ユーフォリア ONE TAP SPORTSユーザーサポートチーム所属

1983年生まれ、新潟県出身。筑波大学大学院 体育研究科修了後、健康計測機器メーカーの研究開発部門に勤務。スポーツ栄養学を専門とし、多くのプロアスリートやジュニア選手の身体組成評価・栄養サポートに従事する。2014年サッカーW杯ブラジル大会では、男子日本代表のコンディショニングサポートも担当。現在はユーフォリアにて、ユーザーチームの栄養サポート、新規事業開発などに従事する。

「スポーツで活躍したい気持ちはあるのに、自分の身体の状態に関心が低い子どもたちに課題感を持った」

最初に、小澤さんのご経歴を教えてください。

新卒で健康計測機器メーカーに入社し、研究開発部門でスポーツ栄養に関わる開発に従事していました。おもに行っていたのは、体組成計と活動量計の開発です。体重の他に体脂肪率や筋肉量を測ったり、エネルギー消費量を測ったりとデータを分析・活用する仕事でした。

競技選手のサポートでは、サッカーチームをサポートする経験が多かったです。2009年からサッカー日本代表の身体組成計測と評価に携わり、2014年のブラジルW杯では選手のコンディション計測・分析を担当していました。また、トップ選手だけでなく、学生の部活動・クラブチームをサポートする機会にも恵まれました。文部科学省の委託事業として全国各地の小・中学生への食育に携わることもありました。

小澤 智子氏 管理栄養士/株式会社ユーフォリア ONE TAP SPORTSユーザーサポートチーム所属
リモート取材時の小澤さん。幅広いスポーツ選手の栄養サポートを行ってきた現場の経験から、育成年代に感じた課題を共有してくれた

大人のプロアスリートからジュニア選手まで幅広くサポートする中、気づかれたことはありましたか?

小・中・高校生の育成年代は、大人と違い成長期なので心も身体もデリケートな時期。そこに携わりサポートできるのはやりがいがありました。一方で、育成年代に自分の身体に興味を持ってスポーツをする子が少ないことへの課題を感じていました。スポーツで活躍したい気持ちはあるのに、健康に気を使う習慣や意識を持てていない。自分の身長・体重を知らない子や、練習から帰ってきて夜遅くにご飯を食べている子も珍しくないことに驚きました。

良いパフォーマンスを発揮するには、健康であることは必要不可欠。プロの選手たちの場合、パフォーマンスが下がったと感じてから慌てて食生活を見直すこともあるのですが、それでは遅いのです。子どもの頃から健康に気をつけることを習慣化しないと、そのまま大人になってしまいます。だから、子どもたちには、今から自分の身体づくりや栄養摂取について興味を持ってもらいたい。そんな意識で栄養サポートを行っていました。「自分の健康」にどう興味を持ってもらうかを考えるのも大事な仕事でしたね。

身長・体重が増加する育成年代では「成長の分」も含めて、エネルギー摂取、栄養バランスを考える必要がある
身長・体重が増加する育成年代では「成長の分」も含めて、エネルギー摂取、栄養バランスを考える必要がある

スポーツをする「成長期の子ども」に必要な食事とは

育成年代はどのようなことに気をつけて栄養摂取をする必要があるのでしょうか?

まずは、子どもが大人のスポーツ選手と同じ栄養摂取をしても同じ結果とはならないことをお伝えしたいです。成人と違い、子どもは右肩上がりで成長しています。身長も伸び続けていますし、筋肉・内臓・骨も成長の真っただ中。なので必要な食事量も質も大人とは違います。スポーツ選手である前に、人の成長過程だということを忘れずに身体づくりをしていく必要がありますね。

具体的に、大人と違う「成長期の食事」とはどのようなものでしょうか?

成長するためのエネルギーを摂取する必要がある、という点ですね。大人と比べて身体は小さいので、必要な栄養量も少ないと思われがちですが、子どもは生活を送るエネルギーとスポーツに必要なエネルギーに加え、成長するためのエネルギーも必要なのです。

保護者の方からは「成長するためにはどんな栄養が必要ですか?」「身長を伸ばすにはどうしたらいいですか?」などとよくご質問をいただくのですが、栄養素をバランス良く摂取するのが重要です、とお伝えしています。身体づくりも、チームスポーツと同じなんですよ。サッカーもゴールキーパーだけでは勝てないですよね。それぞれのポジションが力を発揮し連携して、初めてチームは機能する。身体もいろいろな栄養素が助け合い、形成されていますから。子どもたちにも理解しやすいよう「栄養もチームワークが大事なんだよ」と伝え続けたいですね。

栄養バランスはチームワークで考える
何かひとつの栄養素を積極的に取るというよりは、バランスが大切。身体の中でそれぞれの栄養が「チームワーク」で活躍してくれるのだと伝えるとわかりやすい

骨が成長する成長期。貧血も起こりやすい。カルシウムさえ取れていればよいのではなく、栄養素も「チームワーク」で

育成年代だからこそ知っておくべき、栄養の知識について教えてください。

身長が伸びる時期であることを念頭に置いていただき、骨を作るための栄養摂取を意識してほしいです。身長は成長期の時期にしか伸びません。骨の強度や密度も形成されている最中です。骨は20歳頃を超えてからどうにかしようと思っても、どうにもできないんですね。そのため、成長期に十分な栄養を摂取できないと、骨が成長するポテンシャルのピークを低くしてしまう可能性があります。結果として骨折しやすい身体になってしまうことも。特に重要なのは中学生頃と言われていますが、基本的には20歳までは成長のチャンスと捉え、カルシウムやたんぱく質、ビタミンD、ビタミンKなどの骨を作るための栄養素は意識して摂取してほしいですね。

カルシウム以外にも成長期に必要な栄養素は多い
骨に必要な栄養素といえばカルシウムの印象が強いが、カルシウムだけでは骨は作れない。ビタミンDやK、たんぱく質も必要だ

また、育成年代で意識して摂取してほしいのは「鉄」です。貧血になりやすい年代でもあるので十分な摂取が必要です。栄養は血液で運ばれるので、貧血になってしまうと身長の伸びや疲労回復、怪我の予防など、成長における全ての過程で支障をきたします。持久力が続かず、思うように身体が動かなくなってしまうんです。

他の選手と同じメニューをこなしているのになぜか自分だけバテてしまう。朝起きられない。朝身体がだるい。そんな症状があったら、貧血を疑ってもいいかもしれません。自分には持久力がないんだ、と思い込んでいた学生さんも貧血が治った途端、身体が軽くなった! と言って元気に走り回っていました。パフォーマンスを発揮するためにも、鉄とたんぱく質、ビタミンB12、葉酸、鉄の吸収率を上げるビタミンCは重要です。

その他、成長期に気をつけるべきことはありますか?

たんぱく質の取り方には気をつけたほうがいいですね。朝食はパンだけ。というのはよくあると思うのですが、昼食・夕食で足りないたんぱく質を取らないと不足してしまいます。かといって、最近は小・中学生がプロテインを飲んでいるケースも見受けられるのですが、食事をしっかり取っている場合、今度はたんぱく質ばかりに偏った栄養摂取になりかねません。やはりバランス良く食事をし栄養を取ることが、健康な身体づくりの基本ですね。

「見える化」して、選手自身も保護者も巻き込む

育成年代の中でも、年齢によって気をつけるべきことはあるのでしょうか?

あまり年齢を気にする必要はありません。成長には個人差があるので、この学年ならこれくらい身長がなければいけないと決めることはできません。それよりも自分の身長・体重を測定し、知ることを大事にしてほしいですね。身長はどれくらい伸びているのか。体重はどれくらい増えているのか。最低この二つは把握し、部活動やクラブチームの中で管理できているといいですね。自分の身体の状態を知らないままプレーをし続けるより、データを見ながら調整することで怪我を防ぐことにもつながりますから。

とはいえ、子どものうちから健康を意識するには、ハードルが高いようにも思います。

ですから、根気強く言い続けることはもちろん、トレーナーや監督、コーチ、保護者が連携してチームを組み、身体づくりに必要なことや栄養摂取における知識を伝えることをおすすめします。

周りの大人たちがチームを組むことで、健康を意識してもらう機会を増やすとよいと思います。いろいろな大人が声をかけ続けることで、子どもを巻き込んでいきやすくなるんですね。子どもたちは、スポーツへの向上心があるため「身体づくりは、競技で活躍するために必要なことなんだよ」「健康に気をつけると、もっとプレーがうまくなるよ!」と効果とセットで説明すると実践につなげていけると思います。

また、成果を「見える化」してあげるとモチベーションも上がりやすく、健康への意識も向きやすくなります。保護者が食事づくりをする際に気をつけていただくこともできます。

「見える化」というと……?

食事に含まれる栄養素の内容や、身体の成長の様子をグラフにして表示するんです。そうすることで、どんな努力をしてどれだけ改善したのかをチームで共有できるんですね。数値が伸びていたらうれしいですし、また頑張ろう! となるじゃないですか。子どもだけでなく、保護者も同様です。「自分が作った食事に何が足りてなくて、どう改善したら良いかがわかるとありがたい」という声もあります。言葉で伝えるだけでなく、結果を「見える化」してチームと保護者などの関係者で共有することもおすすめです。

食事を「好き・嫌い」なく食べることも大事だと思うのですが、偏食がある選手にはどう伝えていくといいでしょうか。

嫌いな食べ物に必要な栄養が含まれるなら、代わりになる別の食べ物を食べるしかありません。しかし、家庭では代わりのものを選ぶことができても、好き嫌いが激しいと合宿や遠征先、寮で出される食事を食べられないケースもあります。そうすると、環境の変化によってコンディションを崩しかねません。そういった意味でも、なんでも食べられる子にしてあげるのが一番なのですが。

子どものうちから、自分の身体を管理し調整する習慣がつけば、大人になっても健康に気を使った食生活を続けられます。育成年代は、そのチャンスだと思って、周りの大人がサポートし続けてほしいですね。これからも現場で役立つスポーツ栄養の情報を、お届けしていければと思います。

 

取材/種石 光(ドットライフ) 文/貝津美里