慶應義塾大学野球部|データの蓄積と分析が、試合前の緻密な“ピーキング”を可能に

2019年の東京六大学野球秋季リーグ戦で、3季ぶり37回目の優勝を決めた慶應義塾大学野球部。投手のコンディション管理にONE TAP SPORTSを活用し、故障者を減らし万全の体制で挑める投手基盤をつくりあげた。常勝チームにその活用法を聞く。

インタビュイー

インタビュイー
竹内 大助
慶應義塾大学体育会野球部 助監督

1990年生まれ、愛知県半田市出身。現役時代は左投げの投手。中京大中京で2008年春の選抜に出場。卒業後は慶應義塾大学に進みリーグ戦で22勝、優勝も2度経験した。その後はトヨタ自動車野球部に6年在籍。2019年より母校・慶大に戻り助監督に就任。

優勝を逃した先々シーズン、怪我が相次いだ

まずは野球部の構成について教えてください。

  • 選手人数/160名(1〜4年生の合計、うち4年生40名)
  • チームスタッフ構成/監督、助監督、トレーナー2名(非常勤)、学生スタッフ15名

毎年4月には卒業する選手、新しく入部する選手が入れ替わりながら、常に160名ほどを維持しています。

ONE TAP SPORTSを導入するきっかけについて

私がこちらに赴任したのは2019年2月でした。事前にチームの強みや弱みを聞いていましたが、最も大きな課題はピッチャーの怪我でした。2018年秋の試合では肩や肘の故障が重なり、試合に出られるピッチャーが1~2名という窮地に追い込まれ、ぎりぎりで優勝を逃していました。
いかに怪我をさせずにピッチャーを育てるか。どうやってそれを実現するか検討していたとき、大学院の教授からONE TAP SPORTSを紹介されたことをきっかけに、2019年の7月に導入しました。

導入にあたって、心掛けたことは?

現在、部内のピッチャーのみの40名がONE TAP SPORTSを使用しています。導入にあたって「なぜONE TAP SPORTSを活用するのか」「これを活用した先になにがあるのか」、時間をかけて説明しました。いまの学生たちは自分が納得しなければやらない、でも納得すれば必ずやってくれる。「誰かに言われたから」「ルールだから」ではなく、自分で納得してツールを活用してほしいと思いました。

助監督としてこちらに赴任する前まで、私はトヨタ自動車野球部の選手でした。そこではAMS(アスリートマネジメントシステム)のようなツールは使っていませんでしたが、自分の身体の状態と結果をノートに細かく記録し、コンディショニング管理に役立てていました。蓄積したデータから相関関係が見えてくると、何をしたから怪我をしたのか、どうすれば良かったのか、見えてきます。どんなことでも対策は現状を正確に把握することから始まります。こちらのチームでもこうした手法は役に立つと確信していたので、ONE TAP SPORTSの導入には自信がありました。

竹内氏のコンディション記録ノート
現役時代、竹内氏が自身のコンディションを記録していたノート。データからさまざまな傾向に気づくことができた

「自分を知る」ためのツール

データをどう活用していますか?

導入して半年なのでデータがたまっていろいろ見えてくるのはまだまだこれからですが、すでに変化を感じています。リーグ戦の結果から、一軍ピッチャーの試合に向けたピーキングに有効であることが分かりました。ONE TAP SPORTSは自分を知るためのツールです。コンディションと結果を可視化することで、選手は自分自身に向き合うことができますし、管理する側としてもピーキングに向けた緻密な調整が可能になったと思います。

選手が自発的に入力できるように何か工夫していますか?

ONE TAP SPORTSに入力された情報をもとに選手と話すことが増え、信頼関係が向上しました。「試合に出してもらえないのでは」という不安から、不調を申告しない選手が出る可能性も懸念していました。でも無理をして大きな怪我を引き起こすのは本末転倒ですから。不調は隠したり無理をしたりするのではなく、早期発見・早期対処が重要です。ONE TAP SPORTSがあることで、コンディションについて選手とライトな会話ができるようになりました。助監督としても選手が無理をしない、「Noと言いやすい環境づくり」を意識しています。

おもしろいなと思ったのは、ONE TAP SPORTSの入力で選手の性格がわかることですね。毎日きっちり入力する人もいれば、面倒くさがる人も。指導する側としては、ちゃんと入力する選手には細かい説明を心がけるなど、タイプに合わせた声の掛け方をしています。

慶應義塾大学野球部投手がスマホで入力
毎日自分のスマートフォンから睡眠データを入力する生井惇己投手(写真左)と小林綾投手(右)

データはあくまでデータ。データを基にしたコミュニケーションを重視

どんな項目・データを重視して見ていますか?

ONE TAP SPORTSにはさまざまなデータを記録できますが、私は「疲労度」・「睡眠時間」・「睡眠の質」を重要視しています。疲労度、睡眠の質に関しては選手の主観データですが、それが蓄積され、さまざまなデータとの関係性が可視化されると、客観データになります。日々の練習ではここから選手のコンディションを把握し、投球数や強度、ランニング距離を設定しています。

慶應義塾大学野球部の投手たちのコンディションデータ

試合が近い場合は、ピーキングにも活用しています。指導者としては狙ったピーキングのカーブをつくりたい。ONE TAP SPORTSのグラフを見ながら、フレッシュな状態で試合に臨めるよう練習での負荷を調整しています。
だからと言って登板予定を「数値のみ」で判断することはありません。正直に入力してもらいたいですし、あくまでも現状把握を行い、選手と今後の戦略を模索するためのツールとして活用しています。

コンディション管理を行うようになってから、意識の変化はありましたか?

ONE TAP SPORTSは、指導する側にも意識の変化を起こすと思います。昔ながらの経験と勘に頼った指導には、理不尽な指導や曖昧な理由付けが少なくありません。ONE TAP SPORTSが可視化するさまざまなデータは、一方的に選手を従わせるという指導ではなく、一緒に考え進めていくマインドを生むと感じました。

チームとして解決したい課題がある、成し遂げたい目標がある。そこに至るまでのPDCAサイクルを回すには、ONE TAP SPORTSのようなツールは有効です。試合に勝ったという結果だけでは、本当の振り返りはできません。勝利を生み出した要素はなんだったのか、その相関関係をONE TAP SPORTSで把握するのは、勝ち続けるための武器になると思います。

今後の目標をおしえてください。

2019年はリーグ優勝を果たしましたが、もちろん今年も狙います。一軍ピッチャーの試合に向けたピーキングだけでなく、ピッチャー全体の育成にONE TAP SPORTSをどう活用していくかが今年の課題です。もしかしたらもっと新しい使い方があるのかもしれません。チャレンジを恐れず、これからもいろいろな手段を模索していきたいです。

慶應義塾大学野球部優勝の盾と賞状

 

「ONE TAP SPORTS」お問い合わせはこちら

 

取材・文/はたけあゆみ 撮影/堀 浩一郎