早稲田大学ラグビー蹴球部|「主観」と「客観」の適切な組み合わせが生んだ早稲田流強化術

2020年1月、新国立競技場で行われた大学選手権決勝を制し、11シーズンぶりの大学日本一に輝いた早稲田大学ラグビー蹴球部。名門復活の裏側には、ラグビー特有の多岐にわたるトレーニングの統合的な管理などを目的に導入したONE TAP SPORTSの活用があった。

インタビュイー

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村上貴弘
早稲田大学ラグビー蹴球部 ストレングス&コンディショニングコーディネーター

1973年生まれ。早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業後、ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチとして、アメフトやラグビーなどの競技で幅広い年代を対象に指導を行う。2013年からは15人制ラグビー日本代表S&Cコーチを務め、15年のW杯では南アフリカ代表チーム撃破など日本代表の躍進に貢献。同年より現職。2020年1月にチームは第56回全国大学選手権で優勝を果たした。

全盛の「パワーラグビー」に対抗するために、トレーニングを管理

まずラグビー蹴球部の構成について教えてください。

  • 選手人数/79名(2〜4年生の合計、うち4年生24名)
  • チームスタッフ構成/監督、コーチ、トレーナー、チームドクター、管理栄養士、学生スタッフ16名(レフリー、アナリスト、トレーナー、S&Cスタッフ、マネージャーなど)

ONE TAP SPORTSを導入するきっかけは?

早稲田大学ラグビー蹴球部 ストレングス&コンディショニングコーディネーター 村上貴弘氏

私が2013年から2015年にかけてS&Cコーチを務めていた15人制ラグビー日本代表でONE TAP SPORTSを導入していたんです。代表ではラグビーで求められるさまざまな能力——パワー(筋力)やフィットネス(持久力)、アジリティ(敏しょう性)、コンバット(格闘技術)などを統合的に伸ばしていくことの重要性を強く感じたのですが、早稲田大学ラグビー蹴球部でも、それを実現する必要がありました。それで、ONE TAP SPORTSを使いさまざまなトレーニングを一元管理することを目指したんです。

私が参画した2015年頃の大学ラグビー界は、身体の大きいパワーを備えた選手を生かしたラグビーが優勢でした。早稲田大学はそうした相手に対しフィットネスで優位を築き、揺さぶりをかけて疲れさせ、足を止めることで対抗してきました。しかし帝京大学をはじめとする当時の有力チームは、ただ大きいだけではなく一定のフィットネスも備えるようになってきていて、これまでと同じやり方では勝つのが難しくなっていたのです。

それで、早稲田の強みであるフィットネスやパスなどボールを動かすスキルを磨きながらも、身体を大きくしパワーをつけるウエートトレーニングにも取り組んでいくことになりました。ただ学生ですから、毎日の練習時間には制約があります。限られた時間の中でできるだけ効率よくトレーニングを行う必要がある。また、フィットネスとパワー、それぞれ別々に理想を追求すると、オーバーワークとなり怪我やコンディション不良が発生してしまう。ONE TAP SPORTSを使い、そうした部分のコントロールを行おうとしたのです。

入力項目について教えてください。

現在は「コンディションチェック」としてトータルの身体の健康状態、さらに部位別に5カ所の健康状態を10段階評価で入力しています。「普通のプレーができる状態」が5。それをどの程度上回っているか、下回っているかを主観的に判断してもらっています。これに加えて睡眠時間、体重、体脂肪率。これらが基本となり昼食後、午後の練習が始まるまでの間に入力するルールになっています。

早稲田大学では原則、早朝と午後に練習を行っています。体重や体脂肪率については早朝トレーニング前が好ましいのですが、慌ただしい時間であり選手の負担が増えてしまうことから避けています。

そして、全てのトレーニング終了後にはトレーニングがどれだけきつかったか、主観的運動強度(RPE)を入力してもらっています。あとは週に10セッション行っているウエートトレーニングの記録も。これらに加えて練習前後の体重の減少率を調べ、それを適切な領域に収めるための水分補給を行う取り組みも今シーズンから行っています。

「選手を中心に置き、その声に耳を傾ける」指導を通じ、取り組みをチームへ浸透

こうした入力のスタイルには、スムーズにたどり着いたのでしょうか?

早稲田大学ラグビー蹴球部 ストレングス&コンディショニングコーディネーター 村上貴弘氏

苦労もありました。1回5分くらいで済む作業ですが、日々の入力というのは選手にとっては手間です。入力することで何が得られるのかがしっかり伝わらないと、真剣に取り組んでもらうのは難しい。コーチも、選手の入力から導き出したデータがチームの強化に資するものになっていなければ価値を認めてくれません。ですから、対選手、対コーチ、両方に向けてのさまざまな努力が必要でした。

転機は日本体育大学の伊藤雅充教授らにご支援をいただき「アスリートセンタードコーチング」という指導方針を採用するようになったことです。これはコーチが自分の考えを押し付けるのではなく、選手中心に行う指導のこと。選手にいろいろなことを尋ね、主にその答えから指針を導き出しチームの成長を目指していこうというものです。

そうした考え方がチームに浸透していく中でONE TAP SPORTSを用いた取り組みが機能し始めたように感じます。「中心」に置かれた選手たちの入力への意識が高まっただけではなく、コーチたちも「選手の声を集め、正しい道を探すためのツールとしてONE TAP SPORTSがある」と理解してくれるようになったのです。

他のデバイスを使ったデータ取得もされているのでしょうか?

もちろん、主観的なデータだけを用いているわけではなく、客観的なデータも活用しています。複数の協力会社のおかげで、心拍数や加速度、SpO2(血中酸素)などを計測できる最先端のウエアラブルデバイスを開発していただき、練習中選手の身体にどのような変化が出るかのモニタリングは行っています。それは走り過ぎなどが引き起こすハムストリングなどの肉離れの予防や、選手が感じる主観的運動強度がどのような客観的データと相関があるのかの解明などに活用されています。「主観にエビデンスをつけるために客観数字がある」というのが私たちのスタンスですね。

今後の目標をお教えください。

毎年、どんな状態でも常に日本一を目指しています。S&Cに関わる者としては、選手の肉体的なポテンシャルを最大限発揮させること。そして、もうひとつはS&Cの領域外かもしれませんが、問題解決能力ですね。試合で起こっている問題を自分たちで解決して、次のソリューションを見いだせる力。試合に限らずいかなる逆境からも素早く立ち直り成長につなげられる、レジリエンス(柔軟性)のようなものを、科学的に育めないかとも思っています。

今、このレジリエンスをはじめとしたラグビー選手としてハイパフォーマンスを発揮するための心理的特性などを数値化しようとしているのですが、そうした内面的な強さを早稲田のブランドにできれば素晴らしいと思っています。この目標は私個人が考えたことなのですが、相良南海夫監督によれば、長年引き継がれてきた「早稲田らしさ」の本質と近いそうなのです。選手たち自らがベストな手を瞬時に探り出して勝つ——。そんなチームを目指していきます。

取材・文/秋山健一郎 撮影/堀 浩一郎