「時間」と「種目特性」で考える子どもの持久系トレーニング

「小学生のうちは遊び中心、中学生に入ったら専門的な持久系トレーニングを増やす」このように、発育発達段階に応じて持久系トレーニングの内容を切り替えるという考え方は、長年にわたって共有されてきました。しかし、その有効性を裏づける十分な科学的根拠があるのかというと、必ずしも明確ではありません。そこで本記事では、発育発達段階そのものよりも、「どれくらい持久系トレーニングの時間を確保できるのか」「どんな種目に取り組んでいるのか」という視点から、子どもの持久系トレーニングの考え方を整理してみたいと思います。

筆者

筆者
髙山 史徳 氏
博士(体育科学)、CSCS、株式会社ユーフォリア リサーチャー・学術担当

筑波大学大学院博士後期課程修了、博士(体育科学)。筑波大学体育系(日本学術振興会特別研究員)、KDDI総合研究所研究員を経て、2021年2月に独立。ランナーを対象とした研究論文を多数発表するほか、S&Cコーチとしてハイパフォーマンスサポートに携わる。コラムニスト・ライターとして、エビデンスに基づく知見を現場に落とし込む活動も展開。現在は株式会社ユーフォリアで学術担当として臨床試験の企画立案に従事。パーソナルベストは189.939km(24時間走)、2時間46分15秒(マラソン)。

「持久力」はそんなに単純なものではない

一般に、持久力は13~14歳以降に大きく伸び、思春期前には伸びにくいと言われています。ただ、実際には思春期前の子どもでも持久力は向上しますし、思春期を境にトレーニング効果が劇的に高まると言い切れるほどはっきりした根拠があるわけではありません。

この理由は、そもそも持久力というものが色々な要素で決まっていることにあります。具体的には、持久力というのは、

  • 心臓や肺がどれだけ酸素を運べるか(心肺機能)
  • 筋肉が酸素を使ってエネルギーを消費できるのか(筋の代謝能力)
  • 同じスピードでどれだけ楽に動けるのか(エコノミー)
  • 長く動き続けてもパフォーマンスが落ちないか(耐久性)
  • ペース配分が上手なのか(ペーシング能力)
  • きつさにどう対処できるか(心理的要因)

など、複数の要素の組み合わせで決まります。

そしてこれらは成長の影響の受け方も、トレーニングへの反応も同じではありません。どの能力がどの発育発達段階で伸びやすいのかを整理した十分なデータは存在せず、「持久系トレーニングが最適なのはこの年代」と言い切れる強い根拠はありません。

持久系トレーニングの本質は「量」と「強度」をマネジメントし、負荷をどう積み重ねるか、にある

持久系トレーニングの本質は、突き詰めるとシンプルで、次の2つの組み合わせをどう最適化し、無理なく負荷を積み上げていくのかにあります。

  • どれくらい長く動くか(量)
  • どれくらいきつく動くか(強度)

ゆっくりでも長く走れば「量の多い練習」になりますし、短時間でも息が上がるようなきつさで走れば「強度の高い練習」になります。この「量 × 強度」の掛け算が、トレーニング効果、言い換えると、「持久力」を形づくっていきます。

そして、この量と強度をもとにどう負荷を確保していくかは、

  • どんな種目に取り組んでいるか
  • 持久系トレーニングにどれくらい時間を使えるか
  • 普段の練習がどんな構成になっているか

といった状況が大きく関係してきます。

つまり、持久系トレーニングでは、「何歳か」よりも、「どんな種目で、どんな練習環境にあるか」を基準に考える方が、本質に近いと言えるでしょう。

持久系スポーツ:時間を味方に、低強度を積み重ねる

走る時間を比較的確保しやすい競技の場合、強度の低いランニングを積み重ねることが、合理的な持久系トレーニングの戦略になります。

強度とは、次のように分けることができます。

  • 低強度:走りながら会話ができるペース。長時間続けられるジョグ
  • 中強度:走りながら短い会話なら可能。ややきつく、30〜60分なら維持できるペース走
  • 高強度:走りながらほとんど話せない。インターバル走やレースペース以上のきつさ

持久系スポーツ

一般に持久力を高めるトレーニングというと息の上がるきつい練習をイメージしますが、持久系競技のアスリートを対象とした多くの研究では、トレーニング時間の少なくとも70%以上が、会話ができる低強度で行われていることが報告されています。

低強度での持久系トレーニングは、単に楽な練習なのではなく、次のような持久力の土台となる適応を促します。

  • 心臓や血管が発達し、酸素を運ぶ能力が高まる
  • 筋肉の中でエネルギーを使う仕組みが発達する
  • 同じスピードをより少ないエネルギーで動けるようになる
  • 長時間運動してもペースが落ちにくくなる
  • 高強度トレーニングをこなすための土台ができる

成長期においても、まず軸になるのは、会話ができるくらいの低強度でのランニングです。その上で、必要に応じて中・高強度の刺激を加えていく、というイメージが持てるとよいでしょう。中学生年代でも、例えば次のような組み合わせは持久力を伸ばすトレーニングとなるでしょう。

  • 【基本となる練習】会話ができるペースで30〜60分のジョグ
  • 【時々入れる中強度練習】20〜30分のペース走
  • 【頻度を抑えて加える高強度練習】短いインターバル走(200〜400m)

球技スポーツ:「間欠的持久力」を鍛えるという発想

一方、サッカーやバスケットボール、バレーボールなどの球技では、練習時間の多くがパス、シュートなどの技術練習やゲーム形式の戦術練習に使われます。そのため、陸上競技中長距離走の「今日は60分のジョグの日」といったように、長時間走り続ける練習を組むこと自体が、難しい側面があります。

間欠的持久力が必要とされる球技系スポーツ

また、試合を思い浮かべると分かるように、これらの球技では

  • 数秒の全力ダッシュ
  • 急に止まって、また動く
  • 向きを変える
  • 跳ぶ

といった動きが、途切れ途切れに繰り返されます。

こうした「動く、止まる、また動く」を何度も続けられる力は、一定のペースで走り続ける持久力とは少し違い、「間欠的持久力」と呼ばれます。よって、球技のアスリートが持久系トレーニングを行う場合、短時間の中で心拍数が上がったり下がったりする練習が、種目特性に合っています。

例えば、

  • 10〜20秒、息が上がる強さで動いて、少し休む
  • 数分間、試合を想定した強度で動く
  • 前後左右に動きながら走る、止まる、切り返す

といった練習は、間欠的持久力を高められるだけでなく、短時間でも十分な刺激を身体に与えることができ、技術練習や戦術練習とも両立しやすいという利点があります。

多様な動きの中で、持久力を育むという考え方

ここまで種目特性に応じて持久系トレーニングを考えるという話をしてきましたが、これは決して、小さい頃から一つの競技種目や一つの練習ばかりに取り組むべきだという意味ではありません。

一方で、「早くから一つの種目に絞るのは良くない」と言われることがありますが、この言葉も少し単純に捉えられすぎている面があります。実際には、小さい頃から同じ種目を続けていること自体が、すぐに問題になるわけではありません。むしろ、問題になりやすいのは次のような練習の内容や環境です。

  • 年齢や身体の成長に見合わない練習量やきつさ
  • 痛みや違和感があっても休めないメニュー
  • 同じ動きばかりを毎日のように繰り返すこと
  • 体重や見た目を過度に気にした食事制限
  • ほとんどほかの運動をしない生活

子どもたちに本当に大切なのは、いろいろな動きを経験できているか、持久力以外の体力要素も刺激されているか、しっかり食べて、回復しながら続けられているか、そして怪我なく、安全にスポーツを楽しめているかという点です。

本記事で「種目特性に応じる」と述べたのは、一つに絞ることを勧めているのではなく、限られた練習時間の中で、いかに持久力を高める動きを組み込むかという計画の話です。多様な動きを経験するという土台の上に、その種目らしさを出していくことが、成長期の持久系トレーニングの基本姿勢だと考えています。

まとめ|無理なく続けられ、種目特性にも合う「量×強度」の持久系トレーニングを

子どもの持久系トレーニングを、一律に年齢や学年だけで区切る考え方には限界があります。本当に大切なのは、競技特性や練習で取り組んでいる種目、確保できる練習時間、そして安全に続けられる負荷、という目の前の現実に合わせて計画することです。

時間をしっかり確保できる種目や時期であれば、低強度の積み重ねが土台になります。練習時間が限られる場合では、間欠的持久力を意識した短時間・高強度の刺激を取り入れるなど、状況に応じた選択が求められます。

さらに、同じ種目、同じチームであっても、一年を通して環境は変わります。定期テストや学校行事が重なり、生活リズムが乱れやすい時期には、体調管理や怪我予防のために練習量を少し抑え、その分、短時間で強度の高い練習に切り替える、という考え方もあります。この場合、練習時間は短くなっても、強度を高めれば負荷そのものは維持されます。あるいは、あえて量も強度も落として、負荷を減らす時期をつくることも、長期的なコンディション管理という意味では重要です。こうした強度と量の組み合わせを時期によって変えていくことが、持久系トレーニングの計画となります。

年齢だけにとらわれず、子どもの生活や環境に合わせて、無理なく続けられ、種目特性にも合い、そして将来の可能性を狭めないトレーニングを選ぶこと。それが、子どもの持久系トレーニングにおける、最も現実的で、最も安全な道筋だと考えられます。