女性アスリート外来の開設者に聞く、月経管理の重要性とその方法 —②

女子選手は、日々の激しい練習で無月経や月経不順などの女性特有の健康問題を抱えるケースが多い。にもかかわらず、誤った管理法により深刻な症状に発展することがある。今回は、女子選手が抱える具体的な問題や、その解決方法について聞いた。3回にわたってお届けする。第2回目は〈女性アスリートの三主徴 対策編〉。

インタビュイー

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能瀬 さやか
日本産科婦人科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツ医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本女性医学学会認定ヘルスケア専門医、医学博士

1979年生まれ、青森県八戸市出身。2003年、北里大学医学部卒業後、同愛記念病院研修医に。2006年、東京大学医学部産婦人科学教室入局。国立スポーツ科学センター所属などを経て、2017年より東京大学医学部附属病院女性診療科・産科助教、国立スポーツ科学センター婦人科非常勤などを務める。

①〈月経の仕組み 基礎編〉こちらから

女子選手特有の健康問題が連鎖する状態「女性アスリートの三主徴」

スポーツをする女性に特に多い健康問題として「女性アスリートの三主徴」が国際的にも警鐘が鳴らされていますね。

アメリカスポーツ医学会では、利用可能エネルギー不足、視床下部性無月経骨粗鬆(こつそしょう)症を「女性アスリートの三主徴」と定義しています。国際的には1990年代から警鐘が鳴らされており、日本では数年前から徐々に取り上げられるようになってきました。

利用可能エネルギー不足というのは、運動によるエネルギー消費量に見合ったエネルギー摂取量が確保されていない状態を指します。また、国際オリンピック委員会でもこの利用可能エネルギー不足の状態は、男性アスリートにも起こる問題であること、また、月経や骨の問題にとどまらず全身の生理機能に影響を与えパフォーマンス低下をもたらす問題であるとしてRelative Energy Deficiency  in Sport (RED-S:スポーツにおける相対的なエネルギー不足)という概念を合同声明として出しています。利用可能エネルギー不足の状態は、ガス欠の車を一生懸命動かしているようなもの。そんな状態を続けていれば、パフォーマンスの低下だけではなく心身にも大きな影響を及ぼしてしまいます。

女性アスリートの三主徴
国際オリンピック委員会は、相対的なエネルギー不足は、図の通り、全身へ悪影響を与え結果的にパフォーマンス低下をもたらすとしている。そのうち相対的なエネルギー不足、無月経、骨粗鬆症が「女性アスリートの三主徴」と呼ばれる。(出典:Health Manegement for Female Athletes Ver.3 p.114)

次に視床下部性無月経は、初経(初潮)がこなかったり、月経が3カ月以上止まることを指します。無月経を引き起こす原因はさまざまですが、アスリートの視床下部性無月経の原因の多くは利用可能エネルギー不足です。また、無月経の状態が長期間続くと卵巣から分泌されるエストロゲン(女性ホルモン)は骨量と関連しているため、骨密度が低くなることが分かっています。

繰り返しになりますが、これら三主徴のはじまりは、利用可能エネルギーの不足だと言われています。ですから、治療にあたってはエネルギーバランスの改善を第一に行います。

無月経の治療は「エネルギーバランスの見直し」から。代謝やパフォーマンス向上にもつながる

無月経の治療はどのように行われるのか教えてください。

東大病院女性アスリート外来医師 能瀬さやか氏

 

無月経の原因が利用可能エネルギー不足の場合は、エネルギーバランスを改善することが重要です。日本では、低用量ピルを使って月経を起こす治療が多くみられますが、無月経の原因が利用可能エネルギー不足の場合、低用量ピルによる治療は国際的には推奨されていません。

このような利用可能エネルギー不足による無月経のアスリートでは、公認スポーツ栄養士の先生に入ってもらって、運動によるエネルギー消費量と食事からのエネルギー摂取量の調査を行ってもらっています。炭水化物の摂取量が少ないなど、何が足りていないのかを把握し、それを補う食事をとり月経を戻そうという治療を行います。

一般的には無月経の問題を抱えやすいのは利用可能エネルギー不足になりやすい持久系、審美系の競技の選手です。基本はエネルギーバランスの見直しを行いますが、それでも問題解決が難しい場合、状況に合わせてホルモン療法を考慮していきます。このホルモン療法を行う際は、低用量ピルではなく皮膚から吸収するタイプのエストロゲン製剤を使用します。ただし重要なことは、ホルモン療法を行っている期間も、利用可能エネルギー不足の改善は継続するということです。

瞬発系、球技系、体重・階級制競技のアスリートが無月経になった場合、ホルモン療法は行わず、利用可能エネルギー不足の改善だけで月経の再開を目指します。

婦人科にかかる前に利用可能エネルギー不足による無月経かどうかを見分ける方法はありますか。

いつ月経が止まったのか、次の3つのパターンに当てはまるかどうかを確認すると良いでしょう。利用可能エネルギー不足は3つのパターンに分類されます。まず1つは、低体重など慢性的に利用可能エネルギーが不足しているパターン。2つ目はこれまで規則的にきていたが、体重が減った時期に一致して月経が止まったパターン。最後は練習量が増えたタイミングで月経が止まったパターンです。

これらに当てはまる場合、指導者は選手と相談し運動量と食事量を見直すと良いでしょう。判断が難しい場合は、やはり婦人科医に相談することをお勧めします。女性アスリート健康支援委員会のホームページでは、アスリートの問題に対し診察可能な全国の婦人科医を検索することができます。

エネルギー摂取量を増やすことに対して、体重を増やしたくないという抵抗感を持つ選手もいるのではないでしょうか。

体重増加に関して、抵抗を示すアスリートは多いですね。しかし「利用可能エネルギー不足の改善=極端に体重が増える、体脂肪率が増える」という認識は誤りです。逆に利用可能エネルギー不足になると基礎代謝も落ちることから、月経が規則的にきていた時と同じトレーニングを行っても体重が落ちにくいというアスリートが多く、エネルギーバランスを整えてから減量を行う方が効率的です。

さらにエネルギーバランスを整えることは、パフォーマンスにも良い影響があることが分かっています。実際にエネルギーバランスを整え、月経が戻ったアスリートに話を聞くと、「記録が伸びていて、ベスト記録が出ました」「疲れにくくなりました」という声が上がることも多いです。

私の場合は、女子選手に対して「体重を増やそう」とは言わずに、「エネルギーバランスを改善しよう」という言葉で説明しています。アスリートによっては、「筋量を増やそう」という説明の仕方でも良いかなと思います。適切なエネルギーや糖質を摂取しないと、結果として筋肉量が減ってしまいます。

また、「月経がなくてラクだ」と思っているアスリートもいますが、そのまま放置することは、将来の不妊症につながる可能性もあります。「無月経は病気」と、危機感を持っていただければと思います。

低用量ピルによる月経困難症の治療とそのメリット

月経困難症の治療はどのように行われるのでしょうか。

月経困難症が頻繁にみられるアスリートでは、将来の子宮内膜症のリスクが2.6倍高いことが報告されています。月経困難症に対し使用率が高い鎮痛剤では子宮内膜症の治療や予防にはならないので、低用量ピルでの治療を勧める場合が多いです。

低用量ピルとは、エストロゲンとプロゲステロンという2種類のホルモンを含む薬剤のこと。低用量ピルを服用すると、「身体の中に十分ホルモンがあるため、これ以上ホルモンを分泌しなくてよい」と脳が判断し、排卵を抑制します。自分の卵巣からエストロゲンとプロゲステロンが分泌されなくなるので、子宮内膜が薄くなり経血量が減少。月経困難症の原因物質であり子宮内膜から分泌されるプロスタグランジンの分泌が減ることで、月経困難症の改善につながります。

さらに排卵後のプロゲステロンがPMSに関与していると言われているのですが、低用量ピルによって排卵が抑えられるため、PMSの改善にもつながります。

低用量ピルによる月経困難症の改善
低用量ピルを服用すると、ホルモンの分泌が抑えられ、図の④⑤⑥のような改善が期待されるという。(出典:Health Manegement for Female Athletes Ver.3 p.91)

もちろん、強制するものではありませんので、メリットとデメリットをお伝えし、ご本人の意思で服用するかどうかを考えて頂いています。副作用が出るかどうか、またどのような副作用が出るかは人によって異なりますので、服用した低用量ピルが合わない場合は低用量ピルの種類を変更したり他の薬を提案するようにしています。

月経前に関節が緩む女子選手も多いと聞きますが、低用量ピルの服用によって改善の可能性はあるのでしょうか。

月経前の黄体期に卵巣から分泌されるリラキシンというホルモンが膝前十字靭帯に作用し、関節の弛緩性に影響を与えることが報告されています。リラキシンが6pg/mL以上と高値になると、膝前十字靭帯損傷のリスクは4倍以上高いこと、低用量ピル服用者ではリラキシンの低下が報告されています。

私たちの調査でリラキシンが6pg/mL以上の選手に低用量ピルを服用してもらったところ、リラキシンの低下が見られました。月経前に関節の緩みを感じている選手や黄体期にリラキシンが高い選手は、低用量ピルによってリラキシンを低下させることで、非接触型の膝前十字靭帯損傷をはじめとした傷害予防につながる可能性はあると考えています。
ただし、リラキシンが関節の弛緩性にどれだけの変化を与えるかについては引き続き検討・調査が必要です。

低用量ピルにはどんな副作用がありますか。

吐気、頭痛、胸の張り、不正出血、一時的な体重増加、血栓症などがありますが、副作用が出るかどうかは服用してみないと分かりません。軽い吐気や頭痛であれば、そのほとんどが1週間以内に改善します。血栓症については、服用していない人と比べると、リスクが少し高くなることが分かっています。ただ、実害があった例は10万人に1人といったレベルなので、もともと健康な人にとっては重い副作用ではありません。副作用出現時を考慮して、試合がない時期やシーズンオフの時期に開始するなど、開始時期は慎重に選ぶ必要があります。

また最近では、低用量ピルよりも含まれるホルモン量が少ない「超低用量ピル」が主流となっています。選手本人と相談しながら合うものを見つけていきます。

低用量ピルへの勘違い「将来妊娠できなくなる」は誤り

低用量ピルは「経口避妊薬」とも言いますが、その名称から誤った理解が広まっているとも聞きます。

東大病院女性アスリート外来医師 能瀬さやか氏

私が女性アスリートのコンディション管理について啓発を始めたころから比べると、現在は正しい情報が出回るようになりましたが、今もなお、スポーツの現場には女子選手自身や指導者の思い込みがあります。

特にピルの場合、2012年頃は「悪魔の薬」と認識されていました。「将来妊娠できなくなる」「太る」「コンディションが下がる」と、誰も使いたがらないものだったんです。

多い誤解のひとつである「将来妊娠できなくなる」についてですが、そもそもそんなデータはありません。このような誤解が広まった背景には、女性アスリートに多い利用可能エネルギー不足による無月経のアスリートに対する治療として、低用量ピルが当たり前のように処方されていたことが関係していると思っています。その場合、低用量ピルの服用を止めても、利用可能エネルギー不足が解決しなければ月経が戻ることはありません。にもかかわらず「ピルを飲んでいたから無月経になったのだ」と勘違いされたのではないかと考えています。

今は、低用量ピルを服用していた方が服用を止めた場合、早ければ1カ月以内に、遅くても3カ月以内に9割以上の方がきちんと排卵が戻ることが分かっています。

「ピルは太る薬だ」という誤解も多いです。まず前提として、昔の低用量ピルに比べて今の低用量ピルは含有されているホルモンの量が少なく、副作用がどんどん減ってきているので、体重増加は起こりにくくなっています。

低用量ピル服用による体組成の変化は影響なし
自然月経周期と低用量ピル服用期(使用開始2カ月後)とで体重の変化が見られるか、14名のトップアスリートを調査。結果体重、体脂肪ともに変化は見られなかったという。(出典:Health Manegement for Female Athletes Ver.3 p.91)

これまでの調査や経験的に体重増加の頻度が少ない低用量ピルが分かっているため、競技/種目や個々のベスト体重の希望などによって低用量ピルの種類を使い分けています。しかし、まれに一時的な体重増加が見られる場合もあります。このようなアスリートでは、低用量ピルの種類を変更すると体重増加を抑えられる場合もありますし、それでダメならプロゲスチン製剤というまったく違う薬で対応するのも可能です。医師と相談しながら自分に合ったやり方を探してほしいです。

よく「無月経になるのはダメなのに、低用量ピルで月経を止めるのは良いんですか?」という質問をいただくことがあります。無月経と低用量ピルで月経を止めていることはまったく状況が違うので、そこもご理解いただきたいポイントですね。

自然に無月経になってしまった場合には卵巣から出てくるエストロゲンというホルモンが長期間低い状態となります。一方、低用量ピルで月経を止めた場合、自分の卵巣から出ているエストロゲンは低くても、お薬自体にかなり強い活性を持ったエストロゲンが入っていますので、長期間エストロゲンが低い無月経の状態とは異なります。問題ありません。

スポーツ現場のピルに対する理解は深まっていると感じますか。

時間はかかりましたが、ピルへの理解は徐々に深まってきていると感じます。
2012年の調査では、月経をずらせることすら知らない女子選手が700名中66%もいました。また、過去2回オリンピック出場を果たしているトップアスリートですら「2回とも月経がきてしまい、本来のパフォーマンスを発揮できませんでした」と相談に来るほど、知られていない状況だったんです。

しかし、今では多くの先生方や関連団体のこれまでの啓発活動が実を結び、服用を希望するアスリートや実際の使用率を増えつつあります。リオオリンピックでの低用量ピルの使用率は、ロンドンオリンピックの4倍にまで増加していました。

 


 

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取材・文/種石 光  撮影/堀 浩一郎